2020 Fiscal Year Research-status Report
北海道における絶滅以前のエゾオオカミと人の関係性の再検討
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20K22006
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
梅木 佳代 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (70888750)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | エゾオオカミ / オオカミ / 北海道史 / 人と動物の関係史 / 動物観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、文献調査を通じて明治時代以前の北海道におけるエゾオオカミと人との遭遇事例を収集し、両者の関係性を再検討することである。 2020年度は、北海道立図書館、北海道大学附属図書館を中心に、さらに旭川市、網走市、釧路市、苫小牧市、函館市、根室市、稚内市の公立図書館において文献調査を実施し、基礎情報の収集に努めた。とくに市町村史の中にオオカミに関する言及を確認できた地域では、さらに字史および当該地域の切り開きとして知られる人物に関わる記録に集中して調査を進め、個人の具体的なオオカミ観を示す記録を複数例収集することに成功した。 本研究は、人とエゾオオカミが共存できていたとされる時期の両者の関係性は敵対と親和のどちらを主軸とするものだったのかという視角から分析に取り組むが、当該年度の調査結果では、人の側から積極的にオオカミを攻撃し、排除すべき存在とみなすなど、敵対的なオオカミ観を示す事例が多数得られた。これまでエゾオオカミに対する一般庶民の認識や態度は明確化されずにいたが、議論のための基礎情報として非常に重要であり、今後も集約に取り組む必要性が高いものである。 また、エゾオオカミは直接人身に危害を加えた記録が残っておらず、害獣とみなされたのは家畜被害が原因だったと考察されてきた。しかし、現代の市街地へのクマ類の出没と同様に、生活圏における大型肉食獣との遭遇・侵入が人々の意識や態度に与える影響を考慮すべきであると考え、国立国会図書館において、国内外における野生動物と人との関わり、とくに大型獣類がもたらす被害への対応と共存方法の模索に関する研究事例を調査し閲覧した。 当該年度は参加を予定していた学会のいずれもが新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて開催中止となり、研究成果を報告する機会を得られなかった。そのため、本研究にかかる成果の報告は次年度に積極的に行いたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね当初から想定していた研究実施計画のとおりに進めることができたため。 本研究は、明治時代以前の人とエゾオオカミの関係性について文献上の記述をもとにして分析に取り組むものであり、分析対象となる資料と基礎情報を適切に収集することが肝要だが、資料調査は2021年前半期までに完了できる予定であり、実際に図書館での調査は適宜実施できている。ただし、明治時代の新聞調査について、マイクロフィルム化された記事を用いた作業の進展が想定よりも遅れがちだったが、函館市中央図書館が縮刷版を所蔵しており、こちらを利用することで遂行できる見通しが立っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず当初の予定に従い、主要な文献調査を2021年前半期に完了させることに注力する。同時に、調査結果として集約した事例から、エゾオオカミと実際に遭遇した人々がどのような対応や考え方をしていたのかを確認し整理する作業も進めていく。このときに、遭遇時に人身・家畜被害を想定して防衛や被害防除のための行動をとったか、益獣あるいは無害な存在とみなして特別な対応を必要としなかったのか、全体の傾向を整理して把握することを目指すが、これまでのところ開拓期の和人では、オオカミを害獣視する以外の位置づけが確認できない結果となっている。事例の収集には今後も取り組み続けるが、本州以南では「大口真神」や神狼、神使といった位置づけを付与されることもあったのに対し、北海道ではそうしたオオカミ観がほとんど表出しなかったとすればそれは何故なのかという論点についても考究していきたいと考えている。 最終的には、北海道内の地域、時期、民族ごとのエゾオオカミとの関係性について、差違や変化の有無、その明確化に向けて調査結果および議論・考察のとりまとめを行い、論文として公表することを目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、まず2020年度に参加を予定していた学会や研究大会が新型コロナウイルスの感染拡大により中止となったこと、そして同様の理由により札幌市からの不要不急の外出を自粛するようにという自治体からのたびたびの呼びかけを受けて出張を伴う形での各地の図書館調査を見送らざるをえなかったことにより、当初の予定通り旅費の執行を行えなかったことにある。ただ、この点については、申請時よりコロナウイルスをめぐる状況やその影響を想定し、施設利用や調査出張が遂行できない場合は自治体内の図書館や大学図書館を利用して研究に取り組む計画を立てていたため、当該年度内の取り組みや研究計画の遂行にはほとんど影響していない。 今回生じた次年度使用額は、2020年度中には見送らざるを得なかった、後志、胆振、日高、十勝方面の図書館調査を行うにあたって必要となる旅費および文献コピー費として主に使用する計画を立てている。あわせて、明治時代の新聞縮刷版の調査のため、函館市中央図書館で再度の調査を実施する必要があり、2020年度の学会参加費として計上していた額は、この出張にかかる費用として使用したいと考えている。
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