2020 Fiscal Year Research-status Report
ネパールの旧王都パタンにおける女性自助組織と災害:震災とパンデミック
Project/Area Number |
20K22043
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
竹内 愛 南山大学, 人類学研究所, プロジェクト研究員 (00804387)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ネパール大地震 / コミュニティ復興 / 女性自助組織 / 新型コロナウイルス感染症 / パンデミック / 複合的被災状況 / 災害弱者 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究は、パタンのネワール社会がネパール地震復興過程に新型コロナウイルスのパンデミックにも直面するという複合的被災状況に陥り、女性自助組織ミサ・プツァは、地域や女性自身の直面する課題にどのような対処をしているのか調査を行った。今年度はパンデミックにより海外渡航困難であったため、ミサ・プツァの会員からSNSを利用して調査を実施した。 調査目的は、次の3点であった。①ミサ・プツァは、パンデミック発生まではコミュニティの震災復興を行ってきたが、現下の複合的被災状況においても活動は継続できるのか、②新型コロナウイルス感染症予防のためにミサ・プツァはどのような実践をしているか、③ロックダウン発令中、各家庭で起こった諸問題に対し、ミサ・プツァはどのような支援をしているのか、把握する。 目的①と関連して、パタンでは観光による震災復興が進められてきたが、パンデミックによって観光客が来られなくなり、ミサ・プツァの民族舞踊のショーは停止した。さらに、ロックダウン令により、家族員が外出不可となり、女性の家事・家族の世話の負担が大きくなり、ミサ・プツァでの活動することは困難となった。女性は複合的被災状況において災害弱者と言える状況に置かれていることが解明された。また、目的②と関連し、ミサ・プツァのメンバーはマスクを作り、それを石鹸とともに住民に配布し、感染予防に貢献している。最後に、目的③に関連して、経済的に困窮した会員への支援として、マイクロクレジットのローンの利率を引き下げをしたり、グループ基金を切り崩し会員全員に一部返金したグループがあることが明らかとなった。メンバーの女性たちは、家庭生活と折り合いをつけ、できる範囲で問題対応していることが解明された。 以上の調査結果をジェンダー・災害・開発理論と照らし合わせ、文献研究を進め、本事例の研究的位置づけについて考察を行い、研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の進捗状況としては、当初、計画していたネパールでの文化人類学的フィールドワークを行うことができず、国内での文献研究、データ整理を中心に進めることになったため、やや遅れていると考えている。今年度は、新型コロナウイルスによるロックダウン令が解除された秋と冬に、調査地パタン市に赴き、ネワール民族の女性自助組織ミサ・プツァの活動についてのフィールドワークを行う計画を立てていた。しかし、本年度は海外渡航が困難となり、当初予定していた現地調査を実施することができなかった。したがって今年度は、国内でできる範囲のリモート調査を行った。具体的には、ネパールの人が多く利用しているFacebook、messenngerを利用して、現地研究者、パタンの行政職員および女性自助組織のメンバーが日々投稿する記事をチェックしたり、メールやSkypeでオンラインで聞き取り調査をし、その内容の検討及びこれまでのフィールドワークで得られたデータ分析を行った。リモート調査から、パンデミック下の女性の生活は、震災直後の状況と類似していることが、明らかとなった。ネパール地震発生後、多くの女性は一定期間、家族の世話のために家から出ることができず、女性自助組織の活動に関わることはできなかったが、2020年ネパール国内でロックダウン令が発令された時も、女性は一日中、家事や家族の世話の役割の負担が大きくなった。家庭内の女性役割によって、女性の重労働が増し、自由の制限が大きくなった。これまで災害とジェンダー研究で言われてきた女性は「災害弱者」に陥りやすいという側面が今回のパンデミックでも言えることが明らかとなった。 今年度は災害・ジェンダー研究、女性自助組織研究、開発理論について整理し、本研究対象であるネワール民族の女性自助組織ミサ・プツァが先行研究にどのように位置づけられるのか、そして、研究意義について分析・考察した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、ネパールの旧王都パタンにおいて、女性自助組織ミサ・プツァが、2015年大地震の復興過程において新型コロナウイルスのパンデミックが発生するという複合的災害状況に、いかに対応して活動するのか分析し新たな災害ジェンダー論を構想することである。 パタンでは、1990年代にNGO、地方行政によって、女性の経済的自立を目指してミサ・プツァが設立され、その後、地元女性によって次々とパタン各地に設立され、開発本来の目的よりも地元女性同士の繋がりや共同活動に重きを置いて運営され地域ニーズに対応してきた。これまでの研究では、ネパール地震発生後は、ミサ・プツァのメンバーは一定期間は家族の世話のために家庭から出られなかったが、約1年後からは震災復興のために積極的にコミュニティ活動を行い、コミュニティ運営にも肉体労働にも関与し、復興におけるリーダーシップを発揮している。新型コロナウイルスのパンデミック発生後も、女性の生活は、震災直後の災害弱者としての側面と類似しており、ロックダウン令の下では女性の嫁・母としての負担が大きくなり、家庭外の時間が取れず、ミサ・プツァの活動が一時中断していることが、リモート調査から解明された。 ネパールでは2021年に入って新型コロナウイルスの感染者が増加し、再びロックダウンが発令されているが、パタンでは、ワクチン接種が進んでおり、今後、人との接触が可能となれば、ミサ・プツァは、コミュニティのために活動していくのか注視していく必要がある。複合的被災状況下における女性自助組織の活動事例については、一次資料としても、災害とジェンダー研究においても重要な視点を提示できると考える。 2021年度は、ネパールで夏、冬、春に現地調査を行う計画をしているが、パンデミックの状況に応じて、調査時期や期間を変更する。現地調査が不可となった場合は、国内での調査、文献研究を進める。
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Causes of Carryover |
今年度は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、海外渡航が困難な状況となり、当初の予定であった、大学長期休暇にフィールドワークを計画していた(冬期休暇、春期休暇に各1回ずつ)が、冬期、春期とも調査の延期をせざるを得なくなった。そのため、研究計画書に今年度計上していた海外調査2回分の旅費、人件費・謝金を次年度に持ち越しすることになった。 2021年度は、大学の夏期休暇に1回、冬期休暇間に1回、春期休暇に1回ネパールでのフィールドワークを計画しており、今後、海外フィールドワークが可能な状況となれば、予算内でフィールドワークの日程を当初の計画よりも日程を長くとり、ネパールで、現地研究者、調査協力者との意見交換、本研究への助言をいただき、研究会を実施する。また、調査地パタンのネワール民族の女性自助組織だけでなく、パタン近郊の異民族の女性自助組織の状況についても聞き取り調査、参与観察を行い、より広範な地域で、文化人類学的調査を実施する。 もし、今後コロナウイルスのパンデミックがさらに長期化し、2021年度も海外渡航が不可能な状況となった場合は、国内に存在する複数のネパール人団体を訪れて、そのメンバーたちからインタビューを行う等、国内調査を積極的に行う。また、研究調査のデータの保存のために、大容量記憶装置を購入する。
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Remarks |
本研究のアウトリーチ活動として、2020年には、愛知県立大学大学院合同ゼミ研究会において、「ネパール大地震被災で障がいを負った女性たちの現状と自立支援」と題して、招待講演(オンライン)を行った。また、2021年2月5日、愛知淑徳中学(名古屋市)の『卒業生の話を聞く会』に於いて、「ネパールのカトマンズ盆地の女性自助組織の活動と女性の生き方の変容」をテーマとして、招待講演を行った。
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Research Products
(2 results)