2021 Fiscal Year Research-status Report
Determination of the Parent-Child Relationship in the United States
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20K22053
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山口 真由 信州大学, 先鋭領域融合研究群社会基盤研究所, 特任教授 (50879806)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 親子法 / 家族法 / アメリカ法 / 生殖補助医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
親とは何か――この問いに法的な答えを見出すのが本研究の課題であった。このうち、特に父子関係について、わが国においては、母との婚姻による父子決定の原則を可能な限り貫徹しようとする立場と、父子間の血縁によりそれを修正する立場が対立している。このように、母との婚姻又は子との血縁いずれに父子の本質を求めるかという問題は解消されないまま、今後、さらに多様になりうる家族を前に、より普遍的な「父子の要件」の探求が求められている。 この課題を検討するために、本研究においては、社会における家族の多様化を果敢に法に取り込んできたアメリカ法を調査し、そこからわが国への示唆を得る手法を採る。1960年代以降、従来の婚姻と血縁に結ばれた家族に加えて、ステップファミリー、同性カップルや生殖補助医療による家族形成が顕著になるアメリカにおいては、婚姻や血縁という伝統的な基準に加え、父となる意思や、実際の親としての機能を基準として父子を決定する新しい法理論が現れる。 父子関係をめぐり、婚姻、血縁、意思及び機能という各理論が分断されている状況で、それぞれをつぶさに検討した本研究は、それらに共通する父子の要件(より性中立的に「第二の親の要件」とする)として、家族の内部において1)親子関係の形成に関する母との合意と2)子どもとの継続的な関係の保障、家族の外部に対して3)外形的に「家族」と画されるユニットをコミュニティに表示することを抽出した。 したがって、婚姻そのものでなく親子関係形成に係る母との合意、血縁そのものでなく子との継続的な関係、そして、「家族」というユニットの表示――これらを第二の親の要件として抽出することができる。これは、婚姻を尊重する民法と血縁を求める社会通念との間で長らく引き裂かれてきたわが国の父子関係にも示唆となりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
親とは何かという問いに法的に答えることを目的とする本研究は、もともと三段階の計画であった。第一段階として、父子、より性中立的に「第二の親」に関する普遍的な要件を検討する。第二段階として、母子、第二の親との対応で「第一の親」に求められる普遍的な要件を抽出する。そして、第三段階として、第一の親と第二の親との関係を探ることを予定していた。このうち、現段階で第一段階が終了し、第二段階について検討が進んでいる。 まず、第一段階については、アメリカ法の検討から第二の親に関する普遍的な要件を抽出し、その研究成果について、2022年2月には弘文堂から『アメリカにおける第二の親の決定』を刊行することができた。 次に、第二段階である第一の親について、分娩によって母を決定するとの大原則の限定的な例外となる代理懐胎と養子縁組を対象に設定した上で、代理懐胎については概ね目途がついている。今後は、養子縁組法制について検討し、そこから代理懐胎と養子縁組との共通性を見出して、第一の親の要件の普遍化を試みる。 その後、第三段階として、第二の親については、母との婚姻がなくとも、子との血縁がなくとも、より広い可能性へと発散されていく一方で、第一の親については、産みの母という大原則がいまだ重要であって対照的に産みの母に収斂されていくという研究代表者の仮説を検証する予定である。 普遍的な「親子の要件」の検討という野心的なテーマについて、第一段階が完了し、第二段階に進んでいる点で概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
親子の要件の検討のうち、第一段階となる父(第二の親)の要件の検討が完了したことから、今後は、母(第一の親)の要件の普遍化と、第一の親と第二の親との関係の検討に注力する。 分娩により母を定めるとの原則の限られた例外となるのは、代理懐胎と養子縁組である。依頼者の意思を優先するあまり、契約原理と市場性との結びつきが批判される代理懐胎に対して、養子縁組は福祉的な意義が強調されがちである。ところが、現時点の代理懐胎の研究から、養子縁組と代理懐胎の連続性があると考えて、その可能性を探ることを計画している。 具体的には、アメリカにおける初期の代理懐胎が、養子縁組法制を援用し、特に、子の利益を担保するために、養親候補のスクリーニング調査といった養子縁組の仕組みを取り入れていたことに着目する。ところが、近年は、司法による過度の介入が好まれず、養子縁組に由来する部分は徐々に代理懐胎法制から撤廃される傾向にある。その結果、弁護士代理の原則など契約法理を一部修正することによって代理懐胎者の権利を保護する仕組みは整備されつつも、養子縁組法制の援用によって担われていた、子どもの利益を制度的に担保する仕組みは失われつつある。 今後はアメリカにおける養子縁組法制を検討し、そこから代理懐胎法制と養子縁組法制の連続性を見出す。そして、代理懐胎及び養子縁組つにおいて産みの母を第一の親としない法制がいかにして正当化されているのかを探り、そこから第一の親の要件を抽出する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究においては、アメリカの現地調査を各年度1回予定していたところ、新型コロナウィルスによって海外渡航困難であったため。 海外渡航が困難となる状況を前提として、データベースや文献等による研究を進めており、次年度においてはパソコンやその他関連機器等のデータベースや書籍の購入を含めて助成金を使用する予定である。
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