2020 Fiscal Year Research-status Report
凍結組織検体の1細胞核解析による卵巣明細胞がんの治療抵抗性細胞ネットワークの解明
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20K22826
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Research Institution | National Cancer Center Japan |
Principal Investigator |
森 裕太郎 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 特任研究員 (80883313)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 卵巣明細胞腺癌 / 抗癌剤耐性 / シングル核解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
卵巣明細胞腺がんは抗がん剤抵抗性を示す症例が多く、予後が悪い点が臨床上の大きな問題となっている。卵巣明細胞腺がんの予後の改善を目指す上で、治療抵抗性の機序を明らかにし、新規治療戦略を開発することは産婦人科にとって急務である。 がんの治療抵抗性の背景に、がん組織の多様性及び難治性を構成する細胞ネットワークが存在する事が示唆されているが、このがん組織多様性を理解するための方法論として、シングルセル解析法が主流となりつつある。しかし、従来のシングルセル解析では新鮮ながん組織検体が必要であり、得られた情報の臨床的な重要性を明らかにするには、長期にわたる前向きの臨床研究に依存する必要があった。 これまでの研究で、申請者はシングルセル解析と予後情報を紐付けるため、細胞核由来のRNAを用いたシングル核解析法(single nucleus RNA-seq、snRNA-seq)を確立した。snRNA-seqを既に保存されている臨床凍結検体の解析に用いる事により、既に臨床経過の明らかな症例の後方視的な解析が可能となった。すなわち、治療抵抗性と感受性が明確に分かる症例を選択して解析し比較することで、治療抵抗性に関わる組織多様性や細胞群を同定し、卵巣明細胞腺がんの治療抵抗性の機序について解明することが可能となった。 この手法を用い、卵巣明細胞がん患者において治療抵抗性5症例、治療感受性5症例の凍結組織検体についてシングル核解析法を行った。そのデータ解析から治療抵抗性に関わる細胞群を同定し、その細胞群に特徴的に発現する遺伝子群を特定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者はすでに10症例の卵巣明細胞細胞腺がん症例の凍結組織に対してsnRNA-seqによる解析を施行しており、十分な細胞数と遺伝子発現のプロファイルが得られている。また卵巣明細胞腺がん患者における抗癌剤の感受性症例と抵抗性症例の比較を通じて、治療抵抗性症例に特異的な細胞群を同定し、抵抗性細胞群の遺伝子シグネチャーが卵巣明細胞腺がん患者の予後に関わる事を明らかにした。治療抵抗性群の遺伝子シグネチャーにおいて、細胞外マトリックスおよび低酸素に関連する遺伝子群が有意に多いことがわかった。また治療抵抗性症例においてのみ存在する癌関連線維芽細胞のクラスターがあり、治療抵抗性細胞群における特徴的な遺伝子とその癌関連線維芽細胞群における特徴的な遺伝子の間にリガンドとレセプターの関係にある遺伝子が豊富であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は、独自に開発した3次元スフェロイド細胞培養系によって、卵巣明細胞腺がん組織からのスフェロイド細胞の安定培養に成功している。以前の研究結果から、申請者は、臨床がん組織検体由来のスフェロイド細胞がもとの臨床がん組織検体の特性を保持していることを明らかにしている。凍結がん組織のシングル核解析で得られた治療抵抗性細胞に特徴的な遺伝子シグネチャーについて、スフェロイド細胞培養系で個々の遺伝子のノックアウト実験を行い、抗癌剤耐性への影響を確認する計画である。このスフェロイド細胞を用いたノックアウトスクリーニング実験により、抗癌剤耐性について機能的に重要となる遺伝子の絞り込みが可能となっており、実臨床での治療効果予測因子の同定や新規治療標的の発見につながる可能性があると考える。さらに卵巣明細胞腺がん症例の臨床病理組織スライドを使用することで、スフェロイド細胞培養系による機能的検証で治療抵抗性に関わると実証された遺伝子・タンパクについて免疫組織学的染色を行い、染色結果と臨床情報(卵巣明細胞腺がん症例の治療抵抗性の有無、臨床病理、予後など)との相関を統計学的に解析し、治療効果予測因子や予後予測因子となりうるかの検討を行う計画である。
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Causes of Carryover |
抗癌剤耐性に関わる候補遺伝子についてノックアウトスクリーニングを行うため試薬類とそれらの抗体について購入予定であったが、候補遺伝子の数が多く解析により絞り込む必要があったため購入が遅れた。候補遺伝子の選定をしたので、次年度に購入予定である。
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