2021 Fiscal Year Research-status Report
ウォーレシア・パプア域の沈香―種の分布・成分・遺伝資源保全の共同研究
Project/Area Number |
20KK0019
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山田 勇 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 名誉教授 (80093334)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 美千穂 京都大学, 薬学研究科, 准教授 (30283592)
藤原 裕未 日本薬科大学, 薬学部, 講師 (90756511)
柳澤 雅之 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (80314269)
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Project Period (FY) |
2020-10-27 – 2026-03-31
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Keywords | 沈香 / 沈香分布 / 成分 / 遺伝資源保全 / ウォーレシア・パプア域 |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ禍が継続したため現地調査を実施することはできなかった。そのため、山田はこれまでのウオーレシア・パプア域の沈香に関するフィールド調査記録や写真を整理し直し、地域情報をまとめる書籍刊行の準備を行った。柳澤はこれまでに実施してきたインドネシア・中カリマンタン州での現地調査記録の分析を行った。その結果、熱帯雨林が産出する森林資源利用は、全体的に近年減少傾向にあること、そしてその理由は、資源の不足と共に、商品価値を有する資源とそうでない資源の差異化が進行していることがわかった。沈香は後者に関連し、森林で産出する天然資源が極めて少ない中、栽培技術を新たに創出する在野の研究者・事業者による栽培トライアルが始まっている。こうした動きは、今後の沈香の資源分布や利用等に重要な意義を有すると考えられる。 伊藤と藤原は、これまでに研究代表者が採集したインドネシアの沈香サンプルの DNA 分析を行った。沈香の基原植物の鑑別に有効と報告のある trnL-trnF 領域及び matK 領域を解析したところ、trnL-trnF領域、matK 領域のそれぞれで 32 検体の配列情報は一致し、32 検体が同じ基原種であることが示唆された。得られた配列を Genbank の配列情報と比較したところ、trnL-trnF 領域では一致する配列情報がなく種が確定できなかった。一方、matK 領域では Aquilaria crassna,A. rostrata, A. hirta および Gyrinops versteegii と同一の配列パターンを示した。詳細については、継続して令和4年度で検討を行うこととしている。Genbank の配列情報は、Aquilaria 属、Gyrinops 属の両方ともデータが不足している。基原種が科学的に同定された配列情報を蓄積することは、基原植物の鑑別には必要なことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究はインドネシアのウォーレシア・パプア地域に産する沈香の現地調査を日本とインドネシア双方の研究者が協働で行い、その生息域の生態的な状況を把握し、試料をマタラム大学にもちかえってDNA解析、保存を行い、そしてこの材料をもとに沈香の成分研究や繁殖様式、細胞学的研究などをおこなうことを目的としているが、COVID-19禍の中で現地調査が行えていない。2020年度以前に実施してきた現地調査記録や標本サンプルなどの整理や分析、また文献調査などにより研究を国内ですすめているが、日本人研究者とインドネシア研究者相互の協働による調査、試料の分析、保存により、双方の若手研究者を育て、沈香資源保全センターの設立につなげ、枯渇する資源に対するモデルをつくっていく計画としては、遅れていると言わざるを得ない現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
山田と柳澤はコロナ禍に対処するため、文献調査と現地調査の双方のアプローチをとる。文献調査では、栽培化の進展に関する研究知見の蓄積を行う。現地調査が可能になれば、スラウエシ島東部、ブトン島において、マタラム大学側研究者と共に現地調査を行う。スラウエシ島の南部および西部はすでに調査済みであるが、東部とブトン地域は未調査なため、集中調査を行う。スラウエシ北部において、新種を発見しているので、新たな新種発見の可能性もある。渡航制限解除が早く進んだ場合は、スンバ島、ティモール、アロル島調査についてもすすめていきたい。ティモールは東と西に分かれるが、国境を越えて調査を行う。現地の資源の状況を記録し、試料を採取してマタラム大学へ持ち帰る。マタラムでは種子、挿し木による繁殖を行い、DNA解析をおこなって地域内の種の分布を明らかにする。現地外保全には、グリーンハウスと実験室が必要であるので、マタラム大学の共同研究者であるTri Mulyaningsih氏を中心として現地においてその準備をすすめる。すでにマタラム大学にはこれまでに集めた沈香の保存がおこなわれてきているが、系統的な保全体制と実験用の設備については不完全であるため、保存施設の整備を中心に行いたい。 伊藤と藤原は、検討した2領域では基原種を鑑別することができなかったため、Genbank の配列情報を再検索し基原の鑑別に利用できる可能性のある psbA-trnH 領域を見出している。それらにより、当該領域の解析を行う予定である。また、これまでに山田が採集したインドシナ半島部の沈香サンプルについても同様に検討を進めていくこととする。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、今年度計画していたスラウエシ島東部とブトン島における現地調査が出来なかったため海外旅費を次年度に繰越することになった。これまでに行ってきたフィールド調査記録や写真整理については人件費を使用したが、採取してきた沈香サンプルのDNA分析については日本国内で概ね既存の機器で実施したので、物品費も検査試薬などのみの支出となり繰越が発生した。
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