2012 Fiscal Year Annual Research Report
一分子生理学を超えて:生体分子機械を力で優しく働かせる
Project/Area Number |
21000011
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木下 一彦 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (30124366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石渡 信一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (10130866)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | イオンチャネル / F1-ATPase / ATP合成酵素 / Reverse gyrase / 紡錘体 / プロトンポンプ |
Research Abstract |
回転分子モーターF1-ATPaseの回転のポテンシャルエネルギー(回転子サブユニットの回転に伴う構造エネルギーの変化)を、3つの活性部位に結合したヌクレオチドおよび回転角の関数として求める試みを開始した。蛍光性ヌクレオチドの焦点外し蛍光像からどの活性部位に結合しているかを判定しながら、回転子に結合させた磁気ビーズを磁石で回転させ、ビーズの向きの磁場からのずれでトルクを見積もる。トルクを積分すればポテンシャルエネルギーで、まずは結合ヌクレオチド無しおよびADP1個が結合した状態でのポテンシャルを予備的に決定できた。ADP結合定数の角度依存性と矛盾しない結果となった。また、昨年度に続き回転子頭部の削除を試みる中で、定常加水分解活性が野生株よりはるかに大きな変異体がみつかった。詳細を調べている。 ATP合成酵素においては、合成と加水分解が釣り合う条件から、ATPあたり何個のプロトンが合成に必要かが求まった。構造から期待される値に近い。ATP分解駆動のプロトンポンプ活性は、系の緩衝能の定量により、室温で毎秒数百プロトンと分かった。顕微鏡下でも、リポソームあたりの酵素数が1未満の条件で、各リポソームのポンプ活性が見える。 イオンチャネルの電位センサーに、リンカーを介して外来たんぱく質を融合させると、リンカーの長さが短くなるとともにチャネルが開きやすくなることが分かった。融合たんぱく質が電位センサーを膜外に引っ張り出したものと考えられる。 紡錘体においてダイニンを阻害すると、紡錘形状のすぼまった両端が広がってしまい俵状になる。この片端を顕微操作ですぼめてやると、反対側の端もすぼまることが分かった。すなわち、モーター機能の欠損を外力で補えたことになる。Reverse gyraseは、DNAをスーパーコイルさせる条件下でも、従来のバルク測定よりはるかに速くDNAを捻ることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
F1-ATPaseの化学状態(3つの活性部位それぞれにどんなヌクレオチドが結合しているか)毎のポテンシャルエネルギーの決定は、恐らく実現し得ない夢だと考えていたが、蛍光を利用した化学状態の直接観察により、第一歩を踏み出せた。完成すれば、エネルギー変換分子機械の動作原理の究極の理解(与えられた条件下の動作を予測できる)につながる。野性型より加水分解活性の高い変異体の発見は、これまで知られていなかった回転子-駆動子相互作用の存在を示唆する。 イオンチャネルの手動開閉への挑戦は、まずは電位センサーを標的として、様々なハンドルによる直接操作を試みている。いつ実現してもおかしくない状況にあると考えているが、チャネル電流を計測しながら操作できる系の実現効率がまだ低く、成功に到っていない。種々のハンドルを試す中で、外来たんぱく質という巨大ハンドルを電位センサーにつなげたところ、チャネル開閉の電位依存性が変化することが分かった。すなわち、ハンドル結合の位置により電位センサーを操作することができたことになる。 ATP合成酵素では、初めてATP分解駆動のプロトンポンプ活性が定量できた。これまでは、ATP分解活性のみを測定し、プロトン/ATP比を仮定してポンプ活性を推定する研究しかなかった。挑戦テーマであるプロトン駆動の回転の直接観察および手動回転によるプロトンポンプは、最後の試行を繰り返しつつある。 紡錘体の形状回復において、分子モーターの機能を外力で代替できたのは、予期しなかった発見である。Reverse gyraseによるDNA回転機構は、とりまとめを終えつつある。 全体として、挑戦テーマ以外は、新しい発見も含め順調に進行している。挑戦テーマのうち少なくとも一つは成功させたいというのが代表者の願いで、その期待を込めて、現在の達成度をやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
残すところあと1年なので、これまでの成果をとりまとめつつも、イオンチャネルの手動開閉、ATP合成酵素のプロトン駆動の回転の可視化、同じく手動回転によるプロトンポンプ、という挑戦テーマに全力を注ぎたい。チャネルに関しては、電位センサーだけでなく、細胞質ドメインを始め他の部分の操作による開閉の試みも、すでに開始している。F1-ATPaseの回転ポテンシャルエネルギーは、最後までデータをとり続け、できるだけ多くの化学状態におけるポテンシャルを決定し、たんぱく質分子機械として初めてのエネルギー論に基づく根本理解を目指す。 優しい力で動かすことによりメカニズムを探るという方法論、部品間にどのような力が働くことにより分子機械が働くのかという動作機構論、両側面での成果を最終的にとりまとめたい。
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Research Products
(26 results)