Research Abstract |
本研究は,黄砂表面における多環芳香族炭化水素(PAH)誘導体の二次生成反応,とりわけ発がん性を有するニトロ化PAHや,呼吸器・循環器疾患やアレルギー疾患増悪作用を有するPAHキノン,内分泌かく乱作用を有する水酸化PAH等の非意図的生成に関わる反応について模擬大気実験系を用いた実験を行い,黄砂表面が関与する大気内PAH誘導体生成反応過程を明らかにするとともに,実大気観測によって,長距離輸送中の黄砂表面における有害PAH誘導体生成を検証し,更に,発がんや呼吸器系・循環器系・アレルギー性疾患,内分泌かく乱作用に関わる生体影響の実態を解明することを目的としている。平成23年度は,上記PAH誘導体のうち酸化PAHにも焦点をあて,22年度に引き続き黄砂表面における二次生成の可能性について実験的に検討するとともに,実大気観測による検証も行った。その結果,PAHの酸化反応は,ニトロ化反応と同様に対照としたシリカなどの鉱物粒子上に比べ黄砂粒子上で速く進行することが明らかとなった。また,黄砂イベント時には,観測を行った北京・能登半島の両地点において大気中のニトロ化PAH濃度とともに,酸化PAHの濃度が上昇する傾向が見られた。そこで,酸化PAH/PAH濃度比と飛来黄砂濃度の時系列データを比較すると,黄砂飛来時には黄砂を多く含む粗大粒子中で顕著な濃度比の上昇が観測され,これより実大気中でも黄砂表面で酸化PAHが二次生成している可能性を指摘することができた。また,実大気粗大粒子からの抽出物に対する変異原性試験により,黄砂飛来時の活性は非黄砂時と比較して有意に上昇することが明らかとなった。
|