2012 Fiscal Year Annual Research Report
共鳴軟X線散乱と中性子散乱による外場下での局所電子構造と混成軌道秩序の研究
Project/Area Number |
21224008
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
村上 洋一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (60190899)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩佐 和晃 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00275009)
小出 常晴 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器科学支援センター, シニアフェロー (10150012)
久保田 正人 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究副主幹 (10370074)
富安 啓輔 東北大学, 学内共同利用施設等, 助教 (20350481)
石原 純夫 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30292262)
中尾 裕則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70321536)
雨宮 健太 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 教授 (80313196)
中尾 朗子 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び東海事業, 東海事業センター, 副主任研究員 (90392050)
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Project Period (FY) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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Keywords | 電荷秩序 / スピン秩序 / 軌道秩序 / 共鳴X線散乱 / 中性子散乱 / 遷移金属酸化物 / 軌道混成効果 / 多極子秩序 |
Research Abstract |
本研究では、強相関電子系を対象として、外場(磁場・圧力・光)を加え、局所的な電子自由度秩序構造と遍歴的な電子自由度秩序構造の変化を直接観測することにより、これらの系の新奇な物性の発現機構の解明を目的としている。本年度は、下記のような成果が挙がった。 1.不純物ドープした層状ペロブスカイトマンガン酸化物におけるX線誘起相転移: 電荷・軌道秩序を示す層状ペロブスカイトマンガン酸化物での光照射に伴う軌道秩序融解現象は、知られているもののある緩和時間で秩序相に戻るものであった。ここでは、不純物置換をすることで光照射による永続的なX線誘起相転移を発現することに成功しただけでなく、光による双方向への相転移を引き起こさせることにも成功した。 2.有機強誘電体の強誘電発現機構の解明: 中性・イオン性転移に伴い強誘電性を発現するTTF-CAが、単にイオン化した分子の変異で期待される分極値に比べて極めて大きな分極を持つことや、結晶構造を明らかにすることで、電気分極の大きさと方向が分子間の動的な電子移動によって決定される新たな分極発現機構をもつことを明らかにした。 3.磁場中共鳴軟X線回折実験: 本研究課題で建設した超伝導磁石搭載型軟X線2軸回折計を用い、マンガン酸化物薄膜(LaMnO3)m(SrMnO3)mで発見された巨大磁気抵抗効果の起源を探る実験を実施した。特に系の遍歴性と局在性に注目し、Mn3d, O2p の電子状態を共鳴軟X線散乱により区別した磁場応答実験を実施した。その結果、当初の予想とは違い、磁場印加に伴うMn3d-O2pの混成状態に大きな変化がないが、一方でMn3d状態が大きな変化を示すことを明らかにした。今後、実験を進めるとともに、得られたエネルギースペクトルを解析することで、磁場に対する電荷・軌道・スピンの応答の全容解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、KEK物構研の中に設立された構造物性研究センター(H21年度より発足)の中心的な課題として、研究を進めている。本センターでは多くの構造物性研究者が日々議論をして、最新の重要な物理に取り組む研究体制が整えられてきた。このため、本研究課題も当初の予想を超えた研究内容に発展するテーマが数多く出てきた。特に、放射光・中性子・ミュオンというマルチプローブを相補利用することに関しては、極めて有利な状況にあったため、当初の計画以上に進展したと考えている。 具体的には、不純物ドープした層状ペロブスカイトマンガン酸化物におけるX線誘起相転移は、当初は電荷・軌道秩序状態に対する不純物ドープ効果の研究として進めてきたが、X線回折実験時の散乱強度が入射X線の強度に依存して変化することを日々の議論の中で見い出した。結果として、X線照射に伴う電荷・軌道秩序の融解を見い出しただけでなく、X線照射効果の温度や置換物質依存性を解明した。これらの知見をもとに議論を重ね、最終的に不純物置換を制御して、光照射による永続的なX線誘起相転移を発現することに成功しただけでなく、光による双方向への相転移を引き起こさせることにも成功した。また、マンガン酸化物薄膜(LaMnO3)m(SrMnO3)mで発見された巨大磁気抵抗効果の起源を探る研究では、軟X線領域での共鳴磁気散乱から磁気構造の決定を目指しているものの、波長の制限のために、観測可能な磁気ピークの数は限られている。そこで、中性子磁気散乱実験を行うことで、短周期の磁気構造ピークの観測を行っている。得られたX線と中性子の結果を相補的に用いることで、人工超格子の磁気構造の決定精度が飛躍的に向上してきた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題で建設した超伝導磁石搭載型軟X線2軸回折計を利用して、強相関電子系の機能発現機構の解明を昨年度に引き続き行う。最終年度でもあり、下記の物質系に集中して研究を進める。 1.マンガン酸化物薄膜の巨大磁気抵抗効果の起源: マンガン酸化物薄膜(LaMnO3)m(SrMnO3)mで発見された巨大磁気抵抗効果の起源を探るため、磁場印加に伴うMn 3dの電子状態、スピン構造の変化だけでなく、遍歴的電子であるO 2pの電子状態の変化を観測してきた。結果、当初の予想とは異なり、磁場印加に伴いMn 3d-O2pの軌道混成状態の積層方向の構造変化はなく、Mn 3d状態が大きく変化することを見出した。そこで、引き続き実験を進めるとともに、得られたエネルギースペクトルを解析することで、磁場に対する電荷・軌道・スピンの応答の様子の解明を目指す。 2.Co酸化物のCoスピン状態が絡む物性発現機構の解明: LaCoO3は有名な低温で低スピン状態を取る物質であるが、格子定数の変化、CoのRhドーピング効果、酸素欠損効果などによって、Co3+のスピン状態が中間スピン状態を取り、しかも自発磁化が発現することがわかってきた。そこで、引き続き磁性とCoスピン状態の関係について研究を進める。 3.有機強誘電体の電子型強誘電と呼ばれる特異な分極発現機構の解明: 電荷移動錯体TTF-CAでわかってきた、特異な電子型強誘電の起源を探るために、TTF分子に含まれるS K-edgeでの吸収分光・共鳴X線散乱を行い、分極発現に関わる分子のフロンティア軌道の電子状態の解明を目指す。 4.マルチフェロイック(MF)系の磁場による相制御と物性発現機構の解明: 共鳴軟X線磁気散乱により、MF相の磁気・強誘電性発現機構を解明する。また分極発現と遷移金属3dと酸素2pの軌道混成状態の関係を明らかにする。
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Research Products
(140 results)