2012 Fiscal Year Annual Research Report
バイオマス系完全分散ナノフィブリルの創製と環境対応型材料への変換
Project/Area Number |
21228007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯貝 明 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40191879)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 聡 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (00420224)
岩田 忠久 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30281661)
和田 昌久 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (40270897)
五十嵐 圭日子 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (80345181)
齋藤 継之 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (90533993)
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Project Period (FY) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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Keywords | セルロース / ナノフィブリル / TEMPO / 触媒酸化 / バイオマス / キチン / ナノ材料 / ミクロフィブリル |
Research Abstract |
2012年度は、確立した手法を用いて調製したセルロースおよびキチンナノフィブリルのナノ構造解析、効率的な表面改質による機能付与、ナノ複合化によるガスバリア性および軽量透明高強度バイオ系材料への変換とその構造および物性解析を進め、バイオ系ナノ材料の基礎および応用展開分野を拡大する検討を進めた。 キチンナノフィブリルは、部分脱アセチル化処理のみによって完全ナノ分散化が可能となる。既にセルロース系ナノ素材が口径投与によって血中インスリン濃度を低下できることをマウスの実験で見出している。そこで各種有機酸を対イオンとしてキチンフィブリルのナノ分散化の検討を行った。その結果、ビタミンCであるアスコルビン酸を対イオンとすることで、水中完全ナノ分散化が可能であることを見出した。 TEMPO触媒酸化前処理によって得られるセルロースナノフィブリル(TOCN)については、自己組織化構造とフィルムのガスバリア性の関係を明らかにした。また、TOCNの表面のイオン交換処理によって、長鎖アルキル基をアミン塩としてグラフト化することにより、有機溶剤中でのナノ分散化に成功し、各種疎水性汎用高分子を基材とするナノ複合化が可能となった。更に、1%以下の僅かなTOCN添加量で強度を数十%増加させることができ、そのメカニズムを各種理論式から検証した。その結果、ナノ分散化だけではなく、基材高分子とTOCN間の結合によるナノ効果の存在を見出した。 そのほか、TOCNとナノクレイとの複合化による高強度かつ高破壊エネルギー透明フィルムの調製、ポリビニルアルコールとTOCNを複合化し、高延伸処理した紡糸繊維が高弾性率を示すこと、TOCN1本1本の強度をキャビテーション法によって測定し、多層カーボンナノチューブやケブラーに匹敵し、鋼鉄の10倍程度であることなどを見出し、バイオ系ナノ材料関係の知見を深遠化及び拡大できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
天然セルロース、キチン等の高結晶性多糖を微細化によって変換したナノファイバーは、新規バイオ系ナノ素材として注目されている。しかし、多くの場合、完全にフィブリル単位に分離分散することはできなかった。従って、不均一な構造である以上、ナノ素材を先端材料に応用展開する上で必須の知見である「ナノ分散化度、長さ、幅、各種強度」をフィブリル単位では評価できなかった。一方、本研究で見出した完全ナノ分散化法で得られるキチンおよびセルロースナノフィブリルは、水中あるいは有機溶剤中で完全に1本1本に分離しているため、幅は全て均一で3~4ナノメートルである。すなわち、「長さ、および長さ分布」のみがフィブリルの形状を決定する因子であることから、ナノ素材としての基本的な構造を評価することができた。また、ナノファイバー1本1本の引張破断強度については、キャビテーション法を適用することでその強度が数GPaと極めて高強度であることが見出され、ナノ複合材料としての超高強度を理論面から説明することができた。 TEMPO触媒酸化と軽微な水中解繊処理で得られるTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCN)は、表面に高密度でカルボキシル基のナトリウム塩が存在しているため極めて親水性であり、PETやPLA等の汎用疎水性高分子を基材とした場合、元のナノ分散状態を維持したままの、すなわち高アスペクト比を維持したまま、TOCNが基材中で凝集することなくナノ複合化することは困難であった。しかし、TOCN表面のカルボキシル基にアミン塩という構造で疎水基をグラフト化して導入することにより、イソプロピルアルコール、クロロホルム、テトラヒドロフラン等の有機溶剤中でのナノ分散化に成功した。その結果、多くの汎用疎水性高分子とのナノ複合化が可能となり、バイオ系ナノ材料を用いる軽量高強度材料への変換を可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
大別して基礎分野と応用展開分野に分けられる。基礎分野としては、①本法で得られるバイオ系ナノフィブリルのナノ構造、特にフィブリル幅およびフィブリル内の多糖の分子鎖方向と生合成機構の関係を、各種植物あるいはキチンを生産する動物で明らかにすること、②セルロース系完全ナノ分散化素材調製法としては、これまでは申請者らが独自に見出したTEMPO触媒酸化反応の特異性に依存している。しかし、TEMPOは還元型、ラジカル型、酸化型と反応系内で変態するため、系内での3成分の構成比率や多糖表面での吸着速度、吸着時間、および触媒的に繰り返す反応が何回まで可能なのか、不活性化するとすればその機構など、TEMPO触媒酸化反応そのものに、従来の説では説明できない現象をいくつか見出しており、これらの解明が、より効率的でグリーンなプロセスの確立に貢献できると考える。③さらに、新規バイオ系素材の長さ、長さ分布をナノ分散液の粘弾性挙動から理論式に基づいて解析する方法を構築すること、④TEMPO酸化セルロースを全て同一溶媒に溶解させ、分子量および分子量分布とナノファイバーの関連を明らかにすることなどがある。 一方、バイオ系ナノ材料の応用展開分野研究では、ガスバリア性が見出された薄膜化と、少量添加で軽量高強度化が可能なナノ複合材料に焦点を絞り、①抗菌性と内容物の保存性に優れた透明オールバイオマス包装容器としての多層設計と物性評価、②アスベスト代替の建築用複合材料の設計と物性および耐久性評価、③各種の構造および機能性高分子基材とのナノ複合化による、透明高強度ナノ複合材料化手法の構築とナノ構造解析、④ナノクレイ、カーボンナノチューブ、グラフェン等のナノ材料とバイオ系ナノ材料との複合化とその構造および機能解析等の共同研究によって進め、新規バイオ系ナノ材料の先端分野への応用展開を図る。
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Research Products
(114 results)