2010 Fiscal Year Annual Research Report
カーレル・ファン・マンデル著『北方画家列伝』の成立と影響に関する比較芸術論的研究
Project/Area Number |
21320026
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
尾崎 彰宏 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (80160844)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
芳賀 京子 東北大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (80421840)
幸福 輝 独立行政法人国立美術館, 学芸課, 上級主任研究員 (00150045)
元木 幸一 山形大学, 人文学部, 教授 (10125669)
森 雅彦 宮城学院女子大学, 学芸学部, 教授 (90137612)
深谷 訓子 尾道大学, 芸術文化学部, 准教授 (30433379)
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Keywords | ネーデルラント / マンデル / 絵画の書 / 北方画列伝 / 聖と俗 / イタリア / ドイツ / スペイン |
Research Abstract |
本研究では画家や作品を評価する歴史的なパースペクティヴの再構築を目指すことを主眼としている。つまり、個別に画家論を積み上げていく前提となる歴史的な現実を認識することを目的としている。このための最大の手段となるのが、往時に書かれた歴史的な価値を持つ美術書を研究の対象としそれを多角的に読解することである,こうしたアプローチに最適な書物が、ネーデルラントのヴァザーリと称されたカーレル・ファン・マンデルの『絵画の書』(1604年)である。平成21、22年度には、その三分の二の日本語への翻訳を完了し、平成23年度に完了できる目処がたつところまで仕事を進めることができた。これにくわえて、マンデルの美術理論とネーデルラントの美術との関連性についても研究代表者と分担者がそれぞれの問題関心から研究を進めた。そのなかで研究代表者の尾崎は、ネーデルラント美術の特質として、モノの描写にみられる分野横断的な特徴を解明した。それは、「静物画としての自画像、あるいは自画像としての静物画」という論文においてである。イタリア美術とくらべて、ネーデルラント美術の特徴としてとくに際立っているのは、モノの描写に秀でていることだ。15世紀のファン・エイクはもとより、ヨース・ファン・クレーフェやヤン・ホッサールトのような16世紀の画家には、肖像だけでなく「聖母子」のような画題においても図像的には二義的とみなされる事物の描写がすこぶる精密になり、視覚ばかりでなく触覚的に訴えかける働きをもっている。このような特徴は、モノが神世界の反映としての記号ではなく、それ自体が自律した存在としてとらえられるようになってきた証左でもある。モノにこだわる世俗化の傾向が、静物画であり自画像であるという二重性のなかに顕在化する事例について解明した。こうしたネーデルラントの肖像画の特徴については、分担研究者の深谷訓子も「ヤン・ファン・スコーレル作《エルサレム巡礼者たちの肖像画》考察」と題する論文において、その独自性を解明している。同じく分担研究者の幸福輝はモノの効果にこだわるネーデルラント美術の特徴について、「「淡い色の紙」-レンブラントの和紙刷り版画」という論文で、レンブラントの版画を事例として解明している。このように、本年度は、『北方画家列伝』の翻訳ばかりでなく、ネーデルラント美術に関する特徴をマンデルの美術理論とのかかわりを重視しながらあきらかにするという方向でよりいっそう深化できたといえる。
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Research Products
(6 results)