2009 Fiscal Year Annual Research Report
出雲鰐淵寺の歴史的・総合的研究-日本宗教の歴史的・構造的特質の解明のために-
Project/Area Number |
21320123
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
井上 寛司 Shimane University, 名誉教授 (40027967)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山岸 常人 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00142018)
小林 准士 鳥取大学, 法文学部, 准教授 (80294354)
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Keywords | 中世出雲国 / 出雲大社と鰐淵寺 / 出雲国一官制 / 神仏隔離 / 神仏習合 / 顕密寺院 / 蔵王信仰 |
Research Abstract |
研究の初年度ということから、5つの研究班に分かれてそれぞれ基礎的なデータの集積と調査・研究を行なった。〔文献班〕では、近世初頭の「神仏分離」期までの鰐淵寺関係文書の収集とデータ入力を行なうとともに、その原本校正とこれを補うための新たな史料収集に努めた(叡山文庫や東京大学史料編纂所の所蔵・収集文書を含む)。また、寺内文書の悉皆調査を行ない、仮目録の作成と合わせ、一部の写真撮影を行なった。〔建築班〕では、根本堂・蔵王堂・開山堂など、現存建造物の実測と建築史的検討、及び島根県立古代出雲歴史博物館に寄託されている棟札の調査と写真撮影を行なっだ。〔美術班〕では、同じく古代出雲歴史博物館に寄託されている仏像・仏画・仏具等の詳細な実測調査を行なった。[考古斑]では、鰐淵寺境内と周辺部の現地踏査による僧坊跡や石造物・古道の確認などに努めるとともに、前住職からの聞き取り調査を行なった。また、詳細な地形測量図の作成に着手し、鰐淵寺境内を中心とした航空レーザーによる地形測量を行なった。〔自然環境班〕のうちの「植生」では、鎌倉時代の作成になる『出雲大社井神郷図』の復元的分析とともに、鰐淵寺周辺の植生の現状把握、及び微粒炭素分析のための地点の検討と土壌試料の採取を行なった。同じく「地質」では、出雲大社と鰐淵寺とを結ぶ古道確認のための現地踏査を行なった。 以上の調査・研究によって得られた成果とその重要性として、次の点を指摘することができよう。(1)「神仏分離」までの間の鰐淵寺関係史料の網羅的な収集は歴史的にも初めてのことであり、中世鰐淵寺の実態解明と、今後の調査・研究に極めて重要な意義を持つといえる。(2)建造物では、近世初頭に遡る建造物(鐘楼など)の存在や、摩陀羅神社の歴史的変遷を解明できる展望が開かれたことなどが重要だといえる。(4)美術関係では、11世紀に遡る金銅不動明王像や鎌倉期の金剛鈴など、新たな発見の少なくなかったことが重要だといえる。(5)考古班の行なった詳細な地形測量図は、今後の調査・研究を進めていくための共通の学問的基盤が構築されたという点で重要である。(6)現地踏査を通じて、多数の僧坊跡や石造物の存在が確認されたのも重要である。(7)『出雲大社井神郷図』の分析を通じて、中世鰐淵寺周辺の植生の復元的な実態解明が進んだのも重要である。(8)遙勘越えを始めとする鰐淵寺への参詣道や、出雲大社と鰐淵寺とを結ぶ古道のいくつかが確認され、その実態解明に向け大きく前進したのも重要だといえよう。
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