2012 Fiscal Year Annual Research Report
わが国におけるベーシック・インカムの政策導入に向けた総合的検討とネットワーク形成
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21330135
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
小沢 修司 京都府立大学, 公共政策学部, 教授 (80152479)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山森 亮 同志社大学, 経済学部, 教授 (90325994)
鎮目 真人 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (50285508)
亀山 俊朗 お茶の水女子大学, キャリア支援センター, 准教授 (70507425)
平野 寛弥 目白大学, 人間学部, 講師 (20438112)
堅田 香緒里 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 助教 (40523999)
久保田 裕之 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (40585808)
村上 慎司 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (80584359)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 社会福祉関係 / 経済政策 / 思想史 / 社会学 / 政治学 |
Research Abstract |
本年度の研究実績の概要は以下の通り。 第一に、ベーシック・インカム(以下、BI)の思想に関する要求根拠の研究は、BIの給付要件とされるシティズンシップについて、グローバル化による変容ならびに福祉社会学研究への視座に関して成果を公刊した(亀山)ほか、互酬性については「多様な互酬性」という新たな社会構想の提起を行った(平野)。また、性別分業の観点からBIがフェミニズム社会政策の構成要素となることを明らかにした(堅田)。BIの支給に関わって「家族」と「世帯」概念の検討にも着手した(久保田)。さらに、BIの要求根拠となる雇用の希少性についても論考を深めた(山森)。 第二に、BIの実現可能性に関する研究は、給付付き税額控除に着目した研究ならびにケイパビリティ概念に着目した研究成果を学会で発表した(村上)ほか、これまで検討が遅れていたマルクス経済学からのBI研究を発展させる問題提起を行った(小沢)。現金給付と現物給付を巡る問題では公開研究会(「子育てと住まいから見るBI」2012年12月8日、京都府立大学)を開催した。 第三に、現行諸制度の改良に関する研究は、東日本大震災の復興と関わって、現行制度の適用要件が被害実態に一致しないことを指摘し、BI型の普遍的な救済制度の必要を論じた(鎮目)ほか、復興策のひとつであるキャッシュ・フォー・ワークをワークフェアと関連づけて論じた(連携研究者:小林)。また、近年の生活保護の動向に関わって、貧者の置かれた状況、警察官OB配置問題、生活保護加算制度の経済哲学の側面から論究した(堅田、村上)。 第四に、この間の研究成果が多くの図書の発刊という形で実りつつあるということができよう。学界におけるBI研究の広がりに貢献していることの証左といえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BI政策のわが国における導入可能性について、要求根拠(思想)としてシティズンシップや互酬性、ジェンダー・家族や労働視点からの理論的検討を進め、実行可能性や現行諸制度の改良の側面から給付付き税額控除やワークフェア、生活保護制度、新自由主義的BI論との対抗機軸の考察、東日本大震災後の復興構想としてのBIの有効性・必要性を明らかにし、またマルクス経済学からのBI研究など、BIを多角的に研究することに大きく寄与しているといえよう。こうした研究の成果は、書籍・論文・学会発表・社会的な発信など精力的に行ってきており、また研究期間中開催されたベーシック・インカム・アース・ネットワークの世界大会(2010年と2012年)でも多くの報告を実現するなど、国際的な広がりの中で日本におけるBI論議を進めてきている。 ただし、日本におけるBIに関する研究と要求のネットワーク形成については設立後の定着の課題を有しているのが実情である。
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Strategy for Future Research Activity |
BIの要求根拠(思想)については、海外の研究協力者Yannick Vanderborght教授らとの国際共同研究を進め、研究成果を論文集の形でまとめ出版することを計画している。 現行諸制度の改良の側面からの研究については、「新しい貧困」と呼ばれる現代的な貧困を視野に入れながら、現在様々な批判にさらされる福祉国家的な社会権を再検討し、BIとの関係を明らかにする趣旨で、研究分担者を中心に福祉社会学会第11回大会(2013年6月、立命館大学)でテーマセッションを持ち、同学会における研究者のネットワーク形成を進める。 実現可能性に関する研究については、研究費の一部を繰り越して「マルクス経済学とBI」とのテーマで関連学会(基礎経済科学研究所)との共催で研究大会を開催した(2013年9月、京都府立大学)。そこでの議論を通じて、個人の自由を尊重する社会主義の再生につらなる構想としてBIを位置づけながら、新自由主義的な経済政策との対抗も視野に入れた幅のあるBI研究の発展方向に手応えを得ることができた。 2013年度が本研究の最終年度であるため、これまでの研究成果の社会的発信として図書の刊行や論文執筆、国際的な研究発信、国内外とのネットワーク形成に力をいれることにする。
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Research Products
(34 results)