Research Abstract |
スパッタリング法により作成したアモルファスMo_xGe_<1-x>膜に対し,モードロック共鳴測定を行った。この測定を用いることにより,渦糸系を高速でフローさせ,ピン止めの影響を排除した状況での渦糸格子固有の融解転移を観測することができる。これを動的融解という。21年度には,低温域では動的融解磁場の温度依存性が急激に失われ静的融解磁場より大きく減少することを見出し,渦糸固体格子の真の量子融解転移を世界に先駆け捉えることに成功した。22年度はフローする渦糸格子の格子方位を明らかにした。これは30年も前から理論的に議論されている基本的重要問題であるが,明確な実験はなかった。我々は適度な速度域では,渦糸格子は三角格子の一辺がフロー方向と垂直となる垂直方位をとること,磁場を増大させると,熱的及び量子的動的融解磁場の手前で,垂直から平行方位へと格子が回転することを見出した。この結果は,動的融解磁場手前で,フローする渦糸系が感じるピン止め力が弱まるためと解釈される。実際に,垂直方位をとる磁場中で速度を上昇させピン止め力を弱めると,ある速度を境に平行方位へ変化した。興味深いことに,この閾値の速度では,渦糸格子が1格子分進む時間が磁場の強さ,すなわち格子間距離に依存せず,準粒子が対を組む再結合時間τとほぼ等しいことがわかった。ところで平行方位となる物理的条件は,「ある場所で渦糸が存在していた痕跡・記憶が消える前に,すなわち時間τよりも早く,あとを追いかける隣接渦糸がその場所に到達すること」である。本実験結果は,この時間τを渦糸格子のフロー方位から直接捉えたことになる。つまり,準粒子の寿命というミクロな起源が,渦糸ダイナミクスの巨視的挙動に与える効果を直接観測したものであり,大きな物理的意義がある。
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