Research Abstract |
主にベンゼン以外の種々の分子吸蔵体の相転移機構について,熱力学的見地から検討を行なった.ベンゼン類似体およびクロロメタン類について,DSC測定により熱物性の吸着量依存性を調べたところ,2つの相転移を示すものが多く見られた.これらの相転移のうち,高温側の相転移は吸蔵量に依存することから,その発現には主としてゲスト分子間の相互作用が支配していると考えられる.一方,低温側の転移温度は,吸蔵量による依存性が小さく,分子吸蔵をすることでホスト格子自体が何らかの変化を起こしている可能性も考えられた.しかしながら,これらの相転移機構については不明な点が多いため,今後断熱型熱量計による精密な測定による現象の解明が必要である. また、分子動力学計算により,細孔内に吸着したベンゼン分子の二体相関関数について検討するとともに,拡散挙動の吸着量依存性についても検証を行った.その結果,拡散係数はアレニウス型の温度依存性を示すが、いずれの吸着量においても10-10 m2s-1付近に変曲点が存在し、2種類の異なる活性化過程が存在することが明らかとなった。各過程における活性化エネルギーの差はほぼ2-3kJmol-1であり,ベンゼン分子のinter-cavity diffusionとintra-cavity diffusionとのエネルギー障壁に相当することが明らかとなった.つまり,この障壁を乗り越えるのに必要な温度において,相転移が発現すると考えられる.今後,ゲスト分子に由来する協同現象のUniversalityを検証すべく,IRMOF-1以外の結晶性多孔質配位高分子錯体においても相転移現象の有無を調べる必要がある. IRMOF-1は水に弱いという欠点があり,簡易なインピーダンス測定が困難であったため,水に強い配位錯体高分子であるAl(OH)(OOCC6H4COO)(以降MIL-53)をホストとして用い,リチウム塩水溶液に含浸することでリチウムイオンを含むイオン対の細孔への導入を試みた.しかしながらリチウム塩の有為な吸着は見られず,伝導率も極めて低いままであった.本研究課題において,結晶性多孔質配位高分子錯体への金属イオンの導入が可能であることが明らかとなったので,今後,他のホスト物質に対して,電解質の導入とそれによるイオン電導度の発現の可能性について,展開していく必要性が示唆された.
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