2011 Fiscal Year Annual Research Report
日本産ラン科植物を使った菌従属栄養性進化の総合的解析
Project/Area Number |
21370038
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
遊川 知久 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部・多様性解析・保全グループ, グループ長 (50280524)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三吉 一光 秋田県立大学, 生物資源科学部, 准教授 (60312237)
上野 修 九州大学, 大学院・農学研究院, 教授 (70414886)
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Keywords | 植物 / 担子菌 / 進化 / ラン科 / 解剖学 / 形態学 / 分類学 / 共生 |
Research Abstract |
菌従属栄養レベルと生育立地の光環境が多様化したラン科シュンラン属内の分岐群(ヘツカラン:強光・独立栄養;シュンランとナギラン:弱光・部分的菌従属栄養;マヤラン:弱光・無葉・菌従属栄養)を用いて、植物の菌従属栄養性の進化に随伴する光合成機能の変化を検証した。普通葉を欠くマヤラン以外の種について、葉の光合成量子収率と電子伝達速度を比較したところ、強光環境に生育するヘツカランは弱光環境に生育するシュンランより光合成活性が有意に高いが、同じく弱光に生育するナギランはシュンランより活性が有意に低かった。シュンラン属の葉は、弱光環境に進出し菌従属栄養レベルが高くなるとともに、光合成機能が低下することが示された。次に、果実の量子収率と電子伝達速度を比較したところ、弱光環境に生育するシュンラン、ナギラン、マヤランの果実は、シュンランの葉の63%の光合成活性を示した。強光環境に生育するヘツカランの果実は、シュンラン、ナギラン、マヤランの果実に比べて活性が高かったが、ヘツカランの葉に対しては65%の活性を示した。4種の果実の解剖形質を比較したところ、気孔密度が低く、CO_2拡散経路となる細胞間隙が未発達な点において、種間で共通していた。既往の果実の光合成に関する知見と併せ考察すると、シュンラン属の果実の光合成は、大気CO_2を同化する栄養摂取にではなく、呼吸で生成したCO_2の再固定に機能していると考えられる。したがって、菌従属栄養性のマヤランにおいても、果実に光合成能力が維持されている事が示された。以上の結果から、植物の菌従属栄養性進化において、従属栄養レベルの上昇に伴い、葉では光合成機能が低下する反面、果実においては機能が維持される進化パターンが見出された。これは、栄養摂取における葉と果実の役割の違いを反映していると考えられる。
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