2011 Fiscal Year Annual Research Report
種苗生産における「水作り」の微生物生態学的な解析とマニュアル化
Project/Area Number |
21380127
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
江口 充 近畿大学, 農学部, 教授 (40176764)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
家戸 敬太郎 近畿大学, 水産研究所, 准教授 (90330240)
谷口 亮人 近畿大学, 農学部, 博士研究員 (10548837)
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Keywords | 水作り / 種苗生産 / 微細藻類 / 飼育水 / ロゼオバクター / ビブリオ / グリーン・ウォーター / ワムシ |
Research Abstract |
種苗生産用飼育水(通称"グリーン・ウォーター")には、仔魚を頂点とした独自の生態系・食物網が形成されている。これを便宜上飼育水生態系と呼ぶ。初期の仔魚の生残には、この飼育水生態系の物質循環を支える細菌群が影響する。この飼育水の微細藻類の生理状態や種類により、"グリーン・ウォーター"が変化し、それに応じて飼育水中の細菌群集構造が変化する。本年度取り組み得られた結果は次の3つになる。1)微細藻類の光合成代謝産物を介した細菌群の制御:微細藻類(ここではNannochloropsis oculata、以下ナンノクロ)の培養ろ液にROseobacterグループの細菌(以下ロゼオバクター菌)と魚病細菌Vibrio angullarum(以下ビブリオ菌)を共存させるとビブリオ菌が死滅する(H21、22年度に報告)。これに関わる可能性のある微細藻類の代謝産物として、10数種の有機化合物を、微細藻類の培養ろ液の溶存態有機物濃度に相当する量(5mgC/L)添加し、ロセオバクター菌とビブリオ菌の共存実験を行った。その結果、トリプトファンやガラツクロン酸を添加した場合、微細藻類の培養ろ液と同等のビブリオ菌の殺滅効果をロゼオバクター菌の共存下で確認した。2)他の微細藻類によるビブリオ菌殺滅効果:日本の養殖現場でよく使用される濃縮淡水クロレラと海産クロレラ(いずれもChlorella vulgaris)、エビ養殖などでも利用される珪藻のキートセロス(Chaetoceros gracilis)の培養液にナンノクロと同じようなビブリオ菌殺滅効果があるのか確かめた。生産現場では濃縮淡水クロレラを海水魚の飼育水槽に添加して用いるが、濃縮淡水クロレラでは全くビブリオ菌の殺滅効果がなかった。一方、増殖中の海産クロレラとキートセロスでは、ナンノクロと同じ効果を確認した。興味深いのは、ナンノクロ培養ろ液で効果を示したロゼオバクター菌をキートセロス培養ろ液(無菌状態)に入れ、ビブリオ菌と共存させても効果がなかった点である。キートセロスと協働する善玉菌とナンノクロと協働する善玉菌は異なる可能性が高い。3)ワムシ体内のビブリオ属細菌の変化:微細藻類の種類(ナンノクロと濃縮淡水クロレラ)を変えてワムシを培養し、ワムシ体内のビブリオ属細菌の存在状況を調べた。2)の結果を反映して、濃縮淡水クロレラではワムシ体内からビブリオ属細菌が居なくなることはなかったが、ナンノクロではワムシ体内のビブリオ菌が消滅した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した計画は大きく次の3つである。1)微細藻類と細菌群の光合成代謝産物を介した相互関係、2)20LのマイクロコズムによるVibrio属細菌の抑制効果の検証、3)動物プランクトン(ワムシ)が加わった時の飼育水生態系の変化。いずれの項目についても、一定以上の成果を得ており、論文発表或いは学会発表を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね当初の計画通りに進める。ただ、微細藻類の種類(ナンノクロロプシスとキートセロス)により、微細藻類と協働する善玉菌の種類とその作用機作の異なる可能性が、本年度の研究から明らかになった。これは、「水作り」に利用する微細藻類の種類を変化させることで、その機能が変化することを意味しており、非常に興味深い。次年度以降にさらにこの点についても検討を加えて行く。
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Research Products
(6 results)