2011 Fiscal Year Annual Research Report
エジプト初期国家形成期における穀物調理の専業化と集落の都市化
Project/Area Number |
21401033
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
高宮 いづみ 近畿大学, 文芸学部, 教授 (70221512)
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Keywords | エジプト / 初期国家形成期 / ナカダ文化 / ヒエラコンポリス / 麦 / 穀物調理 / ビール |
Research Abstract |
本研究は、ヒエラコンポリス遺跡の考古学的発掘調査を通じて、エジプト初期国家形成期(前4千年紀)における穀物調理の専業化と集落の都市化について解明することを目的としている。昨年度までの同遺跡HK24B地区の発掘調査によって、1基の大型穀物加熱調理施設(約8x6m)とそれに近接する穀物倉と想定される1基の円形日乾レンガ建造物(直径約L5m)を検出した。 本年度調査の主要目的は、加熱調理施設周辺に発掘調査区を拡張し、(1)穀物調理に関連する施設を検出すること、(2)穀物調理施設および穀物倉に関連する有機物を含む層から、植物遺存体を体系的にサンプリングすること、および(3)別の円形日乾レンガ遺構を発掘して、類似施設の構造、年代、機能を明らかにする手がかりを得ること、の3点であった。 昨年度までの発掘調査区を西方と北方に拡張し、それぞれ7x4mと2x5mのトレンチを発掘することによって、ほぼ上記の目的を達成することができた。ただし、平成23年1月末に始まったエジプトの革命の影響で遺跡周辺の治安が多少悪化したため、当初予定よりも倉庫に保管しておいた遺物の整理作業に多くの時間を割き、発掘調査期間をやや短縮せざるを得なかった。 これまで知られる限り、当発掘調査区で検出された遺構は、前4千年紀前半のエジプトにおける最大の穀物調理施設である。当時の主食である麦の調理方法とそれを巡る社会の組織化は重要であるものの、従来エジプト初期国家形成期における穀物調理についてはほとんど資料がなかったことから、本調査によって入手された考古学的資料は、該期の食料生産形態を知る上で、極めて貴重である。今期調査中に、主に加熱焼成施設の北側から10数カ所に区分して、細かい植物遺存体のサンプリングを実施した。来年度にこれらの植物考古学的分析を実施することによって、大規模な穀物調理の実態と、それがヒエラコンポリスにおける都市化やエジプトにおける初期国家形成にどのような影響を与えたのかを明らかにできると期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
5年間を予定する本研究の最初の2年度(昨年度まで)において、主要目的達成に近づく2つの重要施設(大型加熱焼成施設と穀物倉)の検出・発掘調査を終了しているので、全体の進行状況は基本的に当初目的をクリアしている。ただし、本年度はエジプト革命の影響による治安の悪化に対応するため、予定していた発掘調査よりも資料整理を優先させた点が予定とは順番が異なった。その中でも植物遺存体のサンプリングと後期に予定していた資料整理を完了したので、来年度以降は、植物考古学的分析結果を加えて、最終的な目的を十分に遂げることができると予測している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、基本的に当初の予定通り、残る2年間にヒエラコンポリス遺跡HK24B地区の発掘調査をある程度完結して、目的の「エジプト初期国家形成期における穀物調理の専業化と集落の都市化」の課題についての答えを出す予定である。現時点で、その点に大きな問題はない。 ただし、穀物倉と考えられる円形日乾レンガ遺構について、本年度までの発掘調査の結果、時期が初期国家形成期よりも新しい可能性があることも認められた。この場合もエジプト史にとっては極めて重要な考古学的発見であり、本研究の範囲が初期国家形成期を超えて、王朝時代をカバーする必要性が生じる可能性がある。新しい場合も発掘調査は完了させ、学術報告は行うが、本研究の基本方針を変更する予定はない。
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