Research Abstract |
蛋白質のアミノ酸配列やDNAの塩基配列などを情報学の対象として,多くの研究成果が上げられてきた。従来の記号主体ではなく,対象を情報空間上に直接的に定義づけする情報数理的手法の研究を重視することは,情報学と他の科学諸分野との更なる境界融合的な研究による新しい進展を期待できる。本研究課題では,情報論的アプローチによる物質構造イメージングの理論構築・解析,さらには,情報論的解析による手法を用いた電子線回折パターンからの物質構造復元手法の確立を目的とし,情報数理による物質を対象とした基礎理論と応用研究を行った。 仮想的な物体の回折像からの計算機実験では,完全なフーリエ振幅を与えるが,この場合,従来方法による計算手法で十分な精度を持つ位相が回復された実像が得られる。しかしながら,実験で得られる回折像では,検出器のダイナミックレンジの問題から中心のダイレクト欠損がある。さらには,今後の計測機器の進歩を仮定しても,電子カウントに伴う量子ノイズの問題は原理的には避けられない。この場合,従来方法による計算手法では,初期値に依存した不定な実像しか得られず,その解群の空間的様相などは知られていなかった。我々の研究により,初期値に依存する解群の関数空間において球殻的な構造をしていることを初めて見出し,初期値に依存しなく,かつノイズによる位相回復過程への影響を少なくする平均化実像の構成法を提案した。さらに,その手法を応用し,電子線回折イメージングによって単層カーボンナノチューブの原子配列の観察に成功し,現在の対物レンズを用いている電子顕微鏡では実現できない分解能実現に,理論アルゴリズムとして大きく貢献した。
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