Research Abstract |
南極上空で毎年春先に発生しているオゾンホールのために,皮膚ガンや白内障を引き起こす可能性のあるB領域紫外線照射量が増加している。我々は,眼の水晶体や角膜に対する影響に着目して,赤外吸収, ラマン散乱等の分光学的手法を用いて,南極昭和基地で紫外線曝露した牛と豚の水晶体,角膜の構造変化を評価した。4歳のホルスタイン牛から摘出した眼,角膜,水晶体の試料を,各々,生理食塩水(防腐剤入り)に浸し,紫外線透過率の高い(25nmで80%以上)のポリエチレン袋に封入して,アクリル板に貼り付けた。これら試料を,昭和基地に運搬して太陽光曝露した。その後試料を日本に持ち帰り,ラマン散乱,FT-IRスペクトルの測定を行なった。その結果,3390cm^<-1>のラマンシグナルに対する2935cm^<-1>のラマンシグナル強度が減少したことから,南極の低温によりクリスタリンの脱水がある程度進行したことが分かった。チロシンダブレットの強度変化の様子から、低温によってチロシン残基の環境は変化したが,アミドバンドの強度に大きな変化が無かったことから,主鎖に大きな変化は見られなかった。また,南極の太陽光への曝露によって,トリプトファン残基のラマンシグナルが特異的に減少したことから,水晶体の変化はトリプトファンの分解を引き起こしていることが明らかになった。一方,南極夏季の太陽光照射により,牛角膜はやや黄色く変色した。ラマン散乱測定からは,角膜コラーゲンの大きな構造変化は見出せなかったが,FT-IR測定の結果から,アミドIバンドに対するアミドIIバンドの強度比が,太陽光曝露に従って減少していた。人工紫外線の照射によって,同アミドバンドの強度比の減少率が,ビタミンC添加では抑制され,糖添加によって促進された。南極の太陽光曝露に伴う影響は,人口紫外線曝露4週間と同程度であった。
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