Research Abstract |
南極上空で毎年春先に発生しているオゾンホールのために,皮膚ガンや白内障を引き起こす可能性のあるB領域紫外線照射量が増加している。我々は,眼の水晶体や角膜に対する影響に着目して,赤外吸収,ラマン散乱等の分光学的手法を用いて,南極昭和基地で紫外線曝露した牛と豚の水晶体,角膜の構造変化を評価することを目的とした本課題を申請した。21~23年度の3ヵ年の研究によって,人口紫外線照明を用いて,牛眼の角膜と水晶体タンパク質に対する紫外線曝露の影響評価ができた。その結果,水晶体タンパク質のクリスタリンの白内障様変異が,紫外線によって引き起こされるが,その原因が加齢による白内障とは異なるTrp残基の破壊により生ずることが明らかになった。また,ATR-FT-IR法を用いて,角膜タンパク質のコラーゲンに1週間~4週間の期間,UV-Bの照射を行なった。その際,アミドI,II赤外吸収バンドの強度比に注目して,解析を行った結果,予備実験で行なったUV-C照射の際には,アミドIバンドと比較して,アミドIIバンドの強度が顕著に減少したが,UV-B照射の際とは異なり,大きな減少が観測されなかった。これは,UV-Cと比較してUV-Bのエネルギーが低いためであると考えられた。一方,角膜に糖化処理を行なった場合には,コラーゲン分子の紫外線による分解がより早く進行することが明らかになった。これは,糖尿病に伴う眼病進行の促進という事実とよく対応している。これらの結果から,南極オゾンホール発生に伴う短波長紫外線(UV-B)が我々の眼の組織に与える影響を分光学的に評価することができた。
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