2009 Fiscal Year Annual Research Report
バスク・ディアスポラ政策におけるナショナリティとテリトリアリティ
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21510258
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
萩尾 生 Nagoya Institute of Technology, 大学院・工学研究科, 准教授 (10508419)
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Keywords | バスク / ディアスポラ / ナショナリティ / テリトリアリティ |
Research Abstract |
今日、スペインのバスク自治州政府が実施する在外同胞支援政策は、1994年5月に発布された「在外バスク系コミュニティとの関係法」(以下「関係法」)に基づく。本研究の初年度は、この「関係法」策定側の立場から、法案作成の背景と法文の解釈・運用の実態を調査することに従事した。以下が、現時点での結果概要である。 「関係法」は、スペイン内戦(1936-39)など様々な理由で海外に居住する「バスク地方」出身者の、「バスク地方」への帰還を支援することを、目的の1つに挙げる。ところが、彼らの大半は、「関係法」公布時に既にバスク自治州に帰還していか、帰還に要する財政援助を必要としなかったため、本法の規定する支援を受けた者がほとんどいない。本法の受益者の大半が、在外バスク系住民によって当該国に法人登記され、なおかつバスク自治州の基準を満たして公認された、「バスク館」のメンバーである。 同法はバスク自治州の法律であるため、帰還先としての「バスク地方」とは「バスク自治州」を指す。だが、出身地としての「バスク地方」については、現ナバーラ自治州やフランス領バスク地方をも含む広義の解釈が存在する。また、「在外バスク系コミュニティ」としての「バスク館」は、「バスク自治州の外」ではなく、「広義のバスク地方の外」という意味での「在外」である。このように、「在外」に対置される「ホームランド」の領域を巡り、「関係法」策定者側の間でも解釈と運用のぶれが確認される。 なお、「バスク館」のメンバーシップは、各「バスク館」の規約による。バスクの血筋や国籍を要件から外し、個人の自由意思を尊重する全般的傾向が確認される。バスク人の館長以外全員が日本人という「東京バスク館」が2009年末に公認されたのは、こうした傾向の最たる事例である。 2010年4月現在、「バスク館」は、世界24か国で171を数える。アジア市場開拓を目指す上海など、自治州政府のミッションを背景とする事例もあるが、「バスク館」に対する支援内容は、文化活動が中心であり、政治活動や経済活動は必ずしも主眼にない。ただし、非バスク・ナショナリスト政党が初めて自治州政権を獲得した昨年より、支援の重点を文化活動から経済活動へ移行させる兆候が現れている。
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