2010 Fiscal Year Annual Research Report
看護倫理学の基礎づけとなるハイデガーの根源的倫理学についての研究
Project/Area Number |
21520022
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
池辺 寧 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (00290437)
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Keywords | ハイデガー / 倫理学 / 住むこと / いたわること / 共同存在 / 死 |
Research Abstract |
1. 今年度はまず、ハイデガーにおける住むことの問題に取り組んだ。彼は倫理学を人間の居場所をよく考えることと捉えており、彼の倫理的な問題意識を明らかにしようとする本研究にとって、住むことは重要な主題である。ハイデガーが住むことについて主題的に論じためは、『建てること・住むこと・考えること』という論文である。彼はこの論文のなかで、住むととを大地の上に存在することと捉え、語源に遡りながら住むことの根本動向を「いたわること」と特徴づけた。これに対して、ハンはハイデガーの語源研究の問題点を指摘している。ハンによれば、ハイデガーが語源を曲解した原因は、ハイデガーが住むことの間人格的次元を看過している点にある。たしかに、上記の論文においてハイデガーが人間を住んでいる者と捉えるとき、彼が念頭に置いているのは大地、天、神的な者、死すべき者の四者からなる四方域において物のもとで滞在している人間であって、他者とともに住んでいる人間ではない。ハイデガーの論述には他者とともに住むことという観点は稀薄である。しかし、この観点が看過されているとは決していえない。不十分な論述しか提示していないが、ハイデガーも住むことを人間の相互共同性に属することと捉えている。本研究ではこの点を論拠に据え、グッツォーニやW・マルクスなどの所論も参照しながら、人間は他者との共同存在であるゆえ、住むことはハイデガーにあっても他者とともに住むことにほかならないことを論じた。 2. 人間は死ぬべくして生まれてきた存在である。そこで今年度はさらに、よりよく生きるために死をどのように受け止めたらよいのかを考察し、第三者の死に慣れることは死に対する感覚を鈍麻させること、親しい人の死は自分自身の死を想起させること、死は生に意味を与え、生を可能にする条件であること、等々について論じた。
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