2010 Fiscal Year Annual Research Report
古代アレクサンドリアの聖書解釈の系譜における貧困と富、禁欲の理解
Project/Area Number |
21520068
|
Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
出村 みや子 東北学院大学, 文学部, 准教授 (20183874)
|
Keywords | 古代アレクサンドリア / 聖書解釈 / オリゲネス / フィロン / クレメンス / エンキュクリオス・バイデイア / 貧困 / 富 |
Research Abstract |
今年度は「古代アレクサンドリアの聖書解釈の系譜における貧困と富、禁欲の理解」という研究テーマのもとに以下の二つの学会で発表を行い、それぞれの学会の審査を通じて学会誌に発表論文を掲載していただいた。 一つは昨年7月8日にオーストラリアのメルボルンで開催された初期キリスト教に関する国際学会(The Six Prayer and Spirituality in the Early Church Conference)での研究発表である。これは、オリゲネスの正統性をめぐって彼の死後に激しい論争が展開されたことについて、これを社会・経済史的観点から考察した研究である。オリゲネス論争の神学的解明はこれまでなされてきたものの、その社会的背景に着目した詳しい研究はこれまでほとんどなかったことを考慮して、今回の発表では砂漠の隠修士たちにおけるオリゲネス神学の受容状況や、世俗的教養に対する彼らの態度と禁欲主義との関係、さらにはキリスト教がローマ帝国の国家宗教となる過程において見られる教会内の様々な政治力学を明らかにする試みを行った。 もう一つは昨年8月27日に蓼科で開催された東方キリスト教学会において、「ギリシア教父による聖書解釈」を主題としたシンポジウムにおける発題である。私は「古代アレクサンドリアの聖書解釈の系譜――フィロン・クレメンス・オリゲネス」という題で発表した。紀元後2,3世紀頃の地中海世界において哲学的議論に従事することのできる人々は今日の一般教養に当たる「エンキュクリオス・パイデイア」を修得していた社会層に限られており、今回の発題ではアレクサンドリアで成立したフィロンの『予備教育』やクレメンスの『ストロマテイス』、オリゲネスの『ケルソス駁論』における創世記16章の「ハガルーサラ伝承」のアレゴリー解釈を手がかりにして、当時のアレクサンドリアのユダヤ・キリスト教共同体に属する人々の社会・経済的状況や、哲学および神学に関してそれらの共同体内で生じていた論争について明らかにすることを試みた。
|