2010 Fiscal Year Annual Research Report
銅板油彩画の誕生とその展開-16世紀南北ヨーロッパ美術の交流の観点から-
Project/Area Number |
21520115
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平川 佳世 京都大学, 文学研究科, 准教授 (10340762)
|
Keywords | 美術史 / 芸術諸学 / 西洋美術 / 絵画技法 / マーケティング / 細密画 / ネーデルラント / ローマ |
Research Abstract |
本研究の目的は、銅板上に油絵具を用いて絵画を描く「銅板油彩画」という独特の絵画形態について、特にその誕生と黎明期の様相に関する包括的な考察を行うことにある。二年次にあたる本年度は、1560年代における銅板油彩画の本格的な制作の開始と流行について調査研究を行った。1530年代のセパスティアーノ・デル・ピオンボらの先駆的な試みの後、1560年代、君主の書斎を飾る細密画として、ブロンツィーノらフィレンツェ派の画家達が銅板油彩画を本格的に制作し始めたことは前年度に明らかにした。これを受けて、本年度は、フィレンツエ派の動向にいち早く反応した、ネーデルラントの画家スプランゲルに注目して研究を行った。 周知の通り、スプランゲルはその技巧的、官能的な裸体像で一時代を画した画家である。しかし、こうした後年の姿とは異なり、当初、アントウェルペンでは風景画家の工房で徒弟修業を行い、人物画を志向してイタリアへと出立した後も、当地の優れた人物画家たちとの競合に耐えるため、北方画家の得意とされた風景表現を中心とする作品を制作するなど、極めて戦略的な振る舞いをしていたことが確認される。また、スプランゲルは、油彩技法に加え、イタリアでの芸術活動に必須のフレスコ技法や、水彩カンヴァス画といった珍しい技法などを積極的に習得したことが知られる。珍しい技法を用いることで他との差異化を図る意図のもと、新奇なメデイウムであった銅板油彩画にも関心が向けられたと推測されるのである。 スプランゲルがイタリア時代に描いた銅板油彩画はおよそ7点、小型であるにも関わらず高額で取引されていたというファン・マンデルの記述を裏付けるかのように、それらはみな入念な仕上げを有している。こうしたスプランゲルの取り組みをもって、以後、銅板油彩画の領域に北方画家たちが意欲的に参画することとなったのである。
|
Research Products
(4 results)