2011 Fiscal Year Annual Research Report
文学史家藤岡作太郎の研究―著作と日記の翻刻を中心に―
Project/Area Number |
21520185
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
木越 治 上智大学, 文学部, 教授 (10109093)
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Keywords | 藤岡作太郎 / 日本文学史 / 日記 / 明治の国文学研究史 / 中等学校教科書 / 明治期の文語 / 文学史記述 |
Research Abstract |
本研究の当初から、藤岡作太郎の没年である明治43年2月までの日記の輪読を終了し報告書冊子として刊行することを主たる目標として掲げていたわけだが、その目標を本年度でなんとか達成することができた。これが、本年度最大の成果といえるであろう。五年前に比すると、日記に付した注もかなり詳細なものにすることができ、毎回付してきた人名索引に関しても、多くの訂正を経たのでかなり満足すべきものになってきたと評していいように思われる。 なお、平成24年2月の輪読会からは、日記の最初に戻って明治31年12月分から読み始めており、京都在住時代の、活発に寺社調査に歩き回っている作太郎の姿に導かれながら、明治30年代の京都・奈良の寺社巡りを文字のうえで楽しんでいる。 また、作太郎の編纂した中等学校国語教科書についてかなりくわしく調査し、論文としてまとめたが、この調査作業を通して、文語が理解言語ではなく使用言語であった時代の古典教育の様相を知ることができ、非常に興味深いものがあった。これらを手がかりに、近代口語文体成立に関して、従来のような言文一致運動からだけではなく、教科書・新聞等による明治文語文洗練の動きのなかからも理解すべきであるという確信を得ることができた。これは、本研究を通して得ることのできた非常に重要な観点である。 また、詳細な調査は来年度以降になるが、念願であった『李花亭蔵書目録』及び『李花亭抄録』(いずれも石川近代文学館所蔵)の調査を開始できたのも大きい。それらがもつ意義は予想以上に大きく、これらの資料によって、作太郎の蔵書形成のプロセスや修業時代の学問形成の過程を知ることができそうである。これらは、特に、これからの本研究の方向を示すものである。残された2年間は、これらの調査・翻刻・紹介等を研究の主たる柱としていくつもりでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
藤岡作太郎の日記の解読・翻刻に関しては、当初の予定どおり、没年の明治四十三年二月までの分を活字にし、刊行することができた。現在は、彼の残した日記の最初の方に戻って、解読をすすめており、予想以上のペースといえる。ただし、彼の文学史家としての側面に関しては、同時代の国文学者による多くの文学史に目を通していく必要があるため、やや遅れ気味である。これらの諸点を勘案し、おおむね順調と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
日記については、これまで通り、金沢市及びその周辺に在住する研究員と連携して輪講形式で解読をすすめていく。ただし、冊子としての刊行は、今回の科研期間中にはおこなわない。残された二年間で力を注ぎたいのは、以下の2点である。 1.作太郎の編纂した教科書に関する研究 同時代の逍遙や鴎外等が関与した教科書と比較しつつその内容や編纂過程をより詳細に詰めていきつつ、近代文体確立のプロセス解明につとめたい。 2.『李花亭蔵書目録』の翻刻と研究 これを紹介し、石川県立図書館にある作太郎旧蔵の李花亭文庫の現存書目と対比させつつ、彼の蔵書形成のプロセスを辿っていきたい。 なお、余力があれば、『李花亭抄録』全十三冊の内容紹介も行いたい。これによって、作太郎の学問形成のプロセスは、相当なレベルまで明らかにすること可能になると思われるからである。
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