2012 Fiscal Year Annual Research Report
文学史家藤岡作太郎の研究─著作と日記の翻刻を中心に─
Project/Area Number |
21520185
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
木越 治 上智大学, 文学部, 教授 (10109093)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 藤岡作太郎 / 日記 / 李花亭文庫 / 蔵書目録 / 近世絵画史 |
Research Abstract |
1.本年度は、藤岡作太郎自身の手になる「李花亭蔵書目録」(石川近代文学館蔵)の翻刻を試みた。作太郎が京都に住み始めた明治30年代初頭から記録し始めたものとおぼしく、当初は手元にある蔵書を整理しつつ記載していったものと思われる。李花亭日記の開始が明治31年12月、このとき彼は吉田辰巳と結婚しているから、この目録もその頃からまとめはじめたのであろう。東京に移った明治33年以降は、本文にも「東上以後」と明記されて区切りがなされており、ここからあとについては蔵書の入手先及びその日付等が明記されている場合が多い。 作太郎の蔵書の大部分は現在石川県立図書館に「李花亭文庫」として寄託・管理されており、冊子目録も刊行されている。また、webでの検索も可能になっているので、今回の翻刻ではこれらとの連携をはかり、対照できるようにした。 2.昨年度から読みすすめている明治32年の日記は、これまで翻刻刊行してきた明治40年前後の日記と異なり記述量が膨大である。本年3月までで明治32年5月なかばに達したところであるが、この時期の日記において多くの分量を占めているのは展覧会の記事である。特に京都国立博物館(当時の名称は帝国京都博物館)へは展示替えのあるたびに出かけており展示品についての克明な記録を残している。京都国立博物館研究員である水谷亜紀氏の協力を得て当時の展示記録を照会してもらったところ、同館にはすでにこの時期の展示記録はなく、日出新聞(現京都新聞)掲載の記事しかないことが判明した。作太郎の記録はこの意味でも貴重なものであり、この時期のこうした関心のあり方と活動がそのまま明治36年刊の『近世絵画史』に結実したことがわかるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までで、藤岡作太郎の没年である明治43年2月までの日記を翻刻・刊行し終えた。本研究費による助成金によって日記の翻刻を刊行したのは、明治40年、41年、42年(43年1月及び2月を含む)の3年分であるが、本研究費が交付される以前に刊行した38年・39年の日記の場合は、単なる本文の翻刻だけに終わっているのと比較すると、研究費交付以後の三冊は、冊を重ねるごとに詳細な注を付すことができるようになっており、最後の42・43年分に関してはほぼ満足できるレベルのものになったと自負している。これこそ、この間の蓄積の賜物であるといえよう。 また、関連の論文・報告を3点発表した。平成22年度の「藤岡作太郎と上田秋成・序説」は、近代国文学成立期における近世上方文学に対する関心の深まり方を、上田秋成に対する作太郎の評価の変化を例にして考察したものである。平成23年度の「国文学的日常」は、日記記述の具体例に基づきつつ、明治40年前後における、国文学者としての藤岡作太郎の活動を跡づけたものである。特に、中学用国語教科書編纂の実態とその内容についてかなりくわしく報告したが、この作業を通じて、明治文語文の成立過程及びそれをベースにした国語教育が、近代書き言葉文体に及ぼした影響に関して、非常に重要な示唆を得ることができた。また、平成24年度の「自筆李花亭文庫目録」は、石川県立図書館に現存する「李花亭文庫」本体とリンクさせたデータとしたことが重要であり、それらがいつどこで購入されたか、また、いくつかの書物については手放したものがあること等も知りうる貴重な資料といえる。 以上を要するに、ほぼ予定どおりに調査・研究は進んでいると評価できるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1.日記の翻刻について 所蔵者である石川近代文学館から翻刻許可が出ているのは明治38年~同43年2月まである。それらの翻刻・刊行はすでに終えたわけだが、38年・39年については、注が不備なので、改訂版を早い時期に公にしたいと考えている。また、明治32年~37年分の翻刻刊行については、再度、石川近代文学館及び本日記の刊行を希望している研究者との調整が必要である。そのため、来年度以降、新しい体制で本研究費を申請する予定なので、そのときまでには調整を終え、具体的な予定を確定したいと思っている。 日記に関しては、現在のところは、明治32年度日記の輪読会を月1回開催して読みつつ、その内容を検討していくことに専念しているが、すでに述べたごとく美術関係の記事が多く、展覧会情報との照合などが必要であり、調査にはかなりの時間をかける必要があると考えている。場合によっては、美術関係を除いた記事だけを、翻刻というかたちでなく紹介することも検討したいと思っている。 2.研究の最終年度である今年度において、重点的に行いたいと考えているのは、「李花亭抄録」6巻の精査とその内容紹介である。すでに、昨年度中に簡単な調査は終わっておるが、全体は江戸期の随筆のようなかたちで諸書から抜き書きしたものである(一部講義録も含まれる)。そのため、全部を翻刻することはあまり意味がないと思われるが、学者としての藤岡作太郎の基礎教養を知るための重要な資料なので、今年度中にその内容を報告しておきたいと思っている。 この資料と、昨年度報告した「自筆李花亭文庫目録」の紹介により、作太郎の学問的基盤を明らかにしうると考えている。これらとあわせ、彼の文学史の具体的な分析に進んでいく予定である。
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