2011 Fiscal Year Annual Research Report
ポストモダニズムにおける社会的責任と道徳―新しいユダヤ系アメリカ作家の抵抗
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21520255
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
新田 玲子 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (40180674)
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Keywords | アメリカ文学 / ユダヤ系作家 / ポストモダン / ホロコースト / 社会意識 / レイモンド・フェダマン / ウォルター・アビッシュ / 第二次世界大戦 |
Research Abstract |
本年度はまず、昨年度手がけていたレイモンド・フェダマンの笑いとカウンターナラティヴに関する論文を共著『笑いとユーモアのユダヤ文学』に掲載できるよう計らい、本書の出版に尽力した。 次に、6月にデンマークで開かれた「国際文学心理学会」において、カート・ヴォネガットのSlaughterhouse-Fiveにおける新しい文学表現を論じた。ヴォネガットはユダヤ系ではないが、第二次世界大戦におけるドレスデン空襲やドイツ系アメリカ人という人種的立場を扱って、ホロコーストの影響を受けたユダヤ系アメリカ作家と大いに通じるところがあり、比較対照することで、ポストモダニズムにおけるユダヤ系作家の社会的責任と道徳に通じる概念が明確にできると思った。 さらに、夏には、研究課題を推し進める上での思想的背景を探るために、これまでのジャック・デリダ、エマニュエル・レヴィナス論に加え、ホロコーストについて積極的な発言を行っているテオドール・アドルノの研究を行い、この三者の研究と、フェダマンとウォルター・アビッシュのカウンターナラティヴを関連付けた論文を作成した。この論文は、現在私が中心となって編集を行っている『カウンターナラティヴから語るアメリカ文学』に掲載予定で、来年度の発行を目指している。 今年度の後半はこの本の編集にかかわる一方、来年の「国際文学心理学会」における論文の準備として、サリンジャーのカウンターナラティヴについての論文を作成している。また、来年度、これまで発表してきたアビッシュ論を本としてまとめるために必要な新しい資料収集を行いつつあり、この本を英語で発表できるよう、デリダ、レヴィナス、アドルノについても原書資料の読み込みを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
毎年、国際学会への参加を目標に論文作成を行っているため、論文は順調に作成されている。ただ、二年前に投稿していた国際雑誌への掲載が今年度実現するなど、論文発表には余分な時間がかかる場合がある。今年の学会発表論文は数ヶ月で国際誌に公表されたので、今年は公開論文数が例年より増加して見えるが、研究の進展速度とは関係ない。なお、作家研究を個々に行っているように見えるが、背景となる思想家研究を並行して行い、作家研究をまとめる大きな思想的枠組みを徐々に明確にしていっており、研究は少しずつ集約しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでホロコーストの影響を受けたユダヤ系アメリカ作家が他のポストモダン作家よりも社会的責任感や道徳意識が強いということを漠然と感じてきたが、思想家たちの論理研究や、他のポストモダン作家、あるいはユダヤ人ではなくても戦争や虐殺を体験した作家と比較することで、漠然としたものに形を付けられつつある。したがって、今まで通りの方法で研究を推進すればよいと考えている。
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Research Products
(6 results)