Research Abstract |
代表者は今年度,慈雲飲光(1718-1804)を軸に日本仏教の戒律史・密教史・悉曇学史の総括を図るとともに,旧約聖書第二正典の一つ『シラ書』における「知恵」の本質,あるいは預言者エレミヤの神学とユダヤ教史家フラウィウス・ヨセフスの史観の通底性をめぐって展開した旧約研究に加え,サンスクリットからギリシア・ラテン語に及ぶ言語学的な通語根性(つうごこんせい)を空海の請来になる密教経典に基づいて語源学的に跡づけ,また典礼学研究の一つとしてビザンティン典礼に基づく叙階式テキストの翻刻を行った.このように,今年度における代表者の研究は仏教学・聖書学・比較言語学・典礼学等に及んでいるが,外国語(ハンガリー語,イタリア語)による研究発表としては,聖書学関係に集中して成果が挙がり,これらは欧文論文集「神学論集」として別途まとめられた.こうして,同一の研究者が一定期間のうちに多数の学問分野について研究成果を挙げうるという点にまず,代表者に研究遂行のための「包括的」視点が形成され,本企画の題目でもある「包括的学問体系」が築かれつつあるということが示されたと言える.仏教がキリスト教に対して「予型」の位置づけを獲得することは,西欧において既知の事柄に属するが,それを言語学的に,また典礼上の特質に照らして主張する点に研究代表者の独自性があり,今後はさらに,日本人の心性史の展開に沿って普遍なるものへの啓きが行われるよう努力したい.なお『ヨハネ福音書』第20章「復活のイエス」をめぐり,古代に遡るビザンティン典礼教会の聖書朗読暦と典礼式次第を踏まえつつ,同福音書のメッセージが「十字架上に生きる復活のキリスト」の共同体としての体現にあることを実証した聖書学の拙論は,典礼学と聖体論から新約聖書学に挑んだきわめて斬新な研究であるが,このような視点は国際的な評価を得て,第23回セゲド国際聖書学会の会友表彰を受けた.
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