2012 Fiscal Year Annual Research Report
戦後のベルリンと東京における劇場展開-政治的・社会的言説空間のなかの演劇と娯楽
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21520348
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
井戸田 総一郎 明治大学, 文学部, 教授 (40095576)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 劇場 / ベルリン / 東京 |
Research Abstract |
戦後直後のベルリン市政府(Magistrat der Stadt Berlin)によって発令された劇場関連通達を詳細に分析することによって、1946年9月の段階で7つの劇場に市立劇場(StaedtischesTheater)のステータスを付与していく過程を明らかにした。さらにこれら7つの劇場の分布地図を作製することによって、それらがベルリンの北部・南部それにフリードリヒ通りを中心にした地区及びシャルロッテンブルクというように、ベルリンの広い範囲に展開していることを明らかにした。戦後直後のベルリン市政府はソビエトの影響が強く、当初の比較的寛容な文化政策がこのような市立劇場の分布を生んでいる点を、市政府の構成メンバーにまで遡って明らかにした。 しかし、1952年シラー劇場がシャルロッテンブルクの地区で再開されることを契機に、ベルリンの西側と東側の対立が、米ソの冷戦状態が深刻化していくなかで鮮明になってくる。市立劇場のシステムは消滅し、西側はシラー劇場とシュテークリッツの公園劇場に公的劇場を絞り込むようになり、東側はドイツ劇場及び付設室内劇場さらにシフバウァーダム劇場、マクシム・ゴールキ劇場を国営劇場化する方向に進み、ベルリンの文化政策は統一性を失っていく。以上のことも、劇場地図上で明らかにする方法を用いた。 また、同時期の東京についても、進駐軍の文化政策や国立劇場構想などについて分析を遂行し、東京の劇場地図の作成を進行している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ベルリン州古文館(Landesarchivi Berlin)、ベルリン市博物館(Stadtmuseum Berlin)、芸術アカデミー図書館、国立古文書館などの強力を得て、精力的な資料収集に取り組んだ。ベルリンの戦後劇場史についての記述は少なからず存在するが、本研究の目指すベルリンと東京の比較の視点を入れた新しい記述の地平を切り開くためには、既存の成果を踏まえつつも、通達文書や劇場関係者の文書などのオリジナル資料が最も重要である。この点で、本研究は十分な達成度に至っていると考える。 また、本研究はドイツ語と日本語によるバイリンガル出版を最終的に目指しており、そのためにこれまでにブレヒトや福田善之、多和田葉子に関する論文を順次刊行してきた。この点でも、目標を向かって着実に研究を進めていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルリンと東京の戦後比較劇場史の執筆に取りかかるが、本研究の遂行の過程で発表してきた、ブレヒトに関する論文や多和田葉子の戯曲を分析した論文を取り込むことのできるような構成を考えていく。次のような点が構成のポイントになる。いずれもベルリンと東京の比較の視点で記述する-(1)戦後直後の劇場政策と劇場展開、(2)冷戦下のベルリンの劇場と東京の錯綜する演劇運動、(3)ブレヒト、(4)統一後の劇場展開、(5)ハイナー・ミュラー、さらにベルリンと東京を結ぶ劇作家として福田善之、多和田葉子などを取り上げ、本研究テーマと密接に関連する作品の解釈を掲載する。この出版刊行への作業が本研究のまとめとなる。なお、出版はドイツ語と日本語のバイリンガル出版を計画している。
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Research Products
(2 results)