2011 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀中葉の中国長江流域における社会変容と太平天国
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21520726
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
菊池 秀明 国際基督教大学, 教養学部, 教授 (20257588)
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Keywords | 太平天国 / 北伐 / 反体制勢力 / 同郷結合 / 湘軍 / 下層知識人 / 地方軍事化 / 西征 |
Research Abstract |
本年度は太平天国の北伐史の最終部分と、西征後半部分の歴史について多くの分析を行った。 まず北伐史に関しては、1854年1月に天津郊外を離れた太平軍が壊滅するまでの過程を考察した。従来北伐軍は華北の厳しい冬に敗れたと言われてきたが、実際には凍傷をかかえた将兵が雪融けの泥に動きを奪われ、追撃してきた僧格林泌の軍に殺されたことを明らかにした。また援軍は兵力不足のために出発が1854年2月にずれこみ、新兵が多かったために、途中加わった反政府勢力を統率できなくなった。このため山東臨清占領後に勝保率いる清軍の反撃を受けると、援軍は敗北して北伐軍は敵中深く孤立した。 北伐軍は林鳳祥率いる連鎮の本隊と、李開芳が率いる高唐州の別働隊にわかれて抵抗を続けたが、僧格林泌の水攻めによって苦境に追い込まれた。54年後半に連鎮で食糧が枯渇すると、広西人幹部が特権的な地位を占めることへの反発が湖南、湖北人将兵の間で強まり、多くが脱走を図った。僧格林泌はこれを見逃さず、投降兵を「義勇」に組織して北伐軍攻撃の矢面に立たせた。彼らは大きな戦果をあげ、北伐軍を壊滅に追い込んだが、それは清軍にどのように太平軍と戦うべきかを認識させることになった。 いっぽう西征史については、1854年に曾国藩が湘軍を編制し、太平軍との戦いを開始する過程を分析した。彼は腐敗した八旗、緑営に代えて、下層知識人の師弟関係および湖南の地域結合をベースとした結束力の強い軍隊を組織したが、その編成のあり方は太平軍のそれを多くの部分で受け継ぐものだった。この同郷結合をベースとするパーソナルな組織原理は、その後の中国近代史における社会結合に大きな影響を与えるものだった。太平軍と湘軍は地方の軍事化が進んだ近代中国社会のひな形となったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1854年から60年にいたる太平天国関連史料が予想を大幅に超えて多く、既刊の史料集に収録されていない新発見史料が大量に存在するため、その整理と分析に多くの時間を要した。
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Strategy for Future Research Activity |
史料の整理を急ぐと共に、それらを有効に活用するための研究スタイルを確立したい。従来は論文を執筆後、その内容に関連する部分を小冊子にまとめる作業を行ってきたが、先にあくまで学術的用途に資するための史料集をまとめ、これに基づいて論文の執筆を行う。また著作権の問題を含むため、これらの史料集を商業ベースで公開することは行わない。 最終年度となる今年度は、史料の整理と並んで積極的に研究成果をまとめることに精力を注ぎたい。具体的には論文の執筆に重点を置きたいと考えている。
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Research Products
(7 results)