2011 Fiscal Year Annual Research Report
古代東地中海沿岸域の政治文化:集会・議論と権力の表象―ギリシアとエジプト―
Project/Area Number |
21520737
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
高橋 秀樹 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (80236306)
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Keywords | 西洋史 / 西洋古典学 / 古代ギリシア / 古代エジプト / 比較文化 / 政治文化 / ホメロス / 神話 |
Research Abstract |
本研究は、古代世界における政治文化について、古代キリシアと古代エジプトの事例をそれぞれ分析しつつ、比較しながら、それぞれの独自性と共通性を明らかにしようとするものである。本年度は、古代ギリシア文化圏から見て、古代エジプトより更に東方に位置するアジア中央部における文化的な影響関係を視野に入れた研究も進めることができた。第一に、「胡人像尖帽の起源-丁家間五号墓壁画胡人像解析のために-」及び「酒泉丁家間5号墓壁画胡人像に見られる氈と「三角帽」」においては、中国漢代の図像資料および、魏晋南北朝時代の図像資料、唐代の図像資料などを比較検討しながら、それらに見られる三角形状・前方傾斜の帽子ないし頭飾の起源が、ヨーロッパ南東部とアナトリアに見られるものからの伝播である可能性を論じた。この分析では、エジプト、メソポタミア、中近東の各地の図像を扱い、系統的なマトリックスを用いてギリシアとエジプトの文化の相対的な位置付けを進めた。第二に、「メネラオスとパリスの一騎打をめぐって~『イリアス』第3書に見る強制(強請)行為~」では、議論や話術という政治文化におけるギリシアとエジプトの比較を進め、過去の出来事への言及が、強制(強請)的な発言において重要な役割を果たすことについて議論を深めた。言及される過去は、発言する者とその発言によって特定の行為を強制(強請)される者の両方が体験している過去であることが重要であること、また、地位が高い者から低い者への発言では、過去の出来事の言及が必ずしも必要ではないことなどが確認できる。また「誓約を破棄する者と非難をいなす者~『イリアス』第4書に見る強制(強請)行為~」では、強制(強請)行為を伴う発言でありながら、そこに過去の出来事への言及がない場合があることに注目し、その発言に従う事例と、その発言を黙殺する事例とを比較した。その結果、過去の出来事への言及がない強制(強請)行為に対する反応が、人物造形の重要な一角を成していることが確認できた。第三に、海外出張では、ダブリンのチェスタービーティー図書館所蔵の『イリアス』断片について調査を行った。
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