2009 Fiscal Year Annual Research Report
フィリピン植民地ナショナリストが生み出す「もう1つの植民地主義」に関する研究
Project/Area Number |
21520809
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 伸隆 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 准教授 (10323221)
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Keywords | フィリピン / 植民地ナショナリスト / 米国植民地主義 / ミンダナオ島 / 近代性 / 文明化 / イスラーム教徒 |
Research Abstract |
本研究の目的は、植民地国家フィリピンにおいて、米国植民地主義による文明と啓蒙のプロジェクトが地域を超えて発動する中で、被支配者フィリピン人が従属的な立場から近代に深く関与することで、行為主体ならびに社会内部全体に矛盾・亀裂が生じる植民地システムの分裂状況とその相互連関を考察することにある。本年度は、多元的な植民地空間としてのミンダナオ島と錯綜するアクターの相互連関を対象とした。具体的には3つのアクター(米国植民地官僚・軍人・企業家、キリスト教徒フィリピン人エリート政治家、イスラーム教徒)の役割に着目し、ミンダナオ島に対する思惑や政治的利害と関連づけて分析した。そり結果、フィリピンの複雑な植民地状況は、支配者米国と被支配者スィリピンという二分法的な枠組みでは把握できないことが確認できた。実際には、(1)米出本国(メトロポール)と植民地フィリピン(コロニー)、(2)為政者米国植民地官僚と被支配者スィリピン人、(3)マニラ中心の民政機構(フィリピン委員会)とサンボアンガ中心の軍政機構(モロ州)、(4)被支配者キリスト教徒フィリピン人エリートと被支配者イスラーム教徒エリートなど、無数の対立や緊張関係を潜在的に内包していた。とりわけ米国国内産業の利害代表者やある米国議会は、一貫して植民地フィリピンめ経済発展、とくに農業発展に抑制的な姿勢を取る一方、中央マニラ政府は、独自の立法権を付与された軍政モロ州行政に、介入・干渉を繰の返すなど、植民地をめぐる内と外、中央と地方の対立は深刻だった。さらに亀裂やねじれは、植民地での一攫千金を狙う外国人企業家間(マニラとサンボアンガ)にも及んだ。また一部のイスラーム教徒エリートがキリスト教徒エリートによるフィリピン独立を前提とする国民国家統合を拒絶する一方で、米国支配継続を望むなど、同じ被支配者間での対立も顕在化していた。
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