2010 Fiscal Year Annual Research Report
フィリピン植民地ナショナリストが生み出す「もう1つの植民地主義」に関する研究
Project/Area Number |
21520809
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
鈴木 伸隆 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 准教授 (10323221)
|
Keywords | フィリピン / 植民地ナショナリスト / 米国植民地主義 / フィリピン国家警察隊 / 警察権力 / フィリピン化 / ミンダナオ島 / イスラーム教徒 |
Research Abstract |
本研究の目的は、植民地国家フィリピンにおいて、米国植民地主義による文明の啓蒙プロジェクトが地域を超えて発動する中で、被支配者フィリピン人が従属的な立場から近代に深く関与することで、行為主体ならびに社会内部全体に矛盾・亀裂が生じる植民地システムの分裂状況とその相互連関を考察することにある。本年度は、コロニアルな主体としての植民地ナショナリストと「近代」経験を対象とした。具体的には、自治政府樹立のための政治訓練、地方自治の大幅な権限委譲、さらには植民地国家行政の「フィリピン化」という包括的なエリート政治家統合政策がつくりだす、コロニアルな近代的な主体形成に着目することとした。 その結果、支配者である米国側が国内での反帝国主義運動からの批判をかわすために、フィリピン人エリート政治家を自治付与しながら懐柔し、積極的に取り込んでいく重層的な過程が明らかとなった。従来国政レベル、すなわちフィリピン議会(1907年に編成で国会の下院に相当)のみが着目されるが、地方レベルでの自治の権限委譲はそれに先行する。軍事的平定後の州での州政府組織、治安維持のためにフィリピン国家警察隊などは、フィリピンに対する敵愾心や不信を抱えながら行われた。1913年までの共和党政権主導によるフィリピン植民地経営は、一定程度の自治を容認しながらも、フィリピン人エリートによる統治能力を完全に否定するものであった。ところが、民主党下でのハリソン総督政権は1917年に、フィリピン国家警察隊トップにフィリピン人を任命し、三権のみならず、米国軍に代わる警察権力のフィリピン化が一層伸長する。警察権力のフィリピン化がその後、ミンダナオ島や米国による植民地支配継続を切望するイスラーム教徒に与えた影響等を検討する作業は、今後の新たな課題である。
|