2009 Fiscal Year Annual Research Report
草原の狩猟-日本における半自然草原の狩猟文化の研究-
Project/Area Number |
21520826
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Research Institution | Miyazaki Municipal University |
Principal Investigator |
永松 敦 Miyazaki Municipal University, 人文学部, 教授 (30382451)
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Keywords | 草原 / 狩猟 / 阿蘇信仰 / 農耕儀礼 / 鳥猟 / トシガミ |
Research Abstract |
九州のほぼ中央部に位置する阿蘇地方は広大な草原が広がる。人々は毎年野焼きを営み灌木の成長を抑制し草原を人口的に維持している。最新の花粉分析の研究では一万年前から野焼きが継承されている可能性が指摘されている。阿蘇地方では現在も、野焼きをしながら狩猟を行う、中世史料に記される「焼狩」が営まれており、野焼き・草原維持・狩猟が一つの枠組みのなかで機能していることが認められる。中世阿蘇神社の最大の神事である卯の日祭りの初日は、大規模な狩猟神事が行われ、その後に、狩場に位置する吉水神社の歳禰の神を起こして阿蘇神社に神幸する神事がある。 今回、全ての行事を調査したところ、神職が杓で氏子の背中をさすることを「お年玉」と呼んでおり、トシガミが背中に宿ることを意識していることが認められた。鹿児島県甑島のトシドン行事とも相通じる内容で、阿蘇の狩猟神事の根幹にトシガミが深く関わっていると言えよう。狩猟神事のあとに、農耕儀礼を行う構造は、鹿児島県大隅半島の柴祭りとも共通しており、南九州全域の狩猟神事の本質を解明するうえで貴重な伝承を採録することができた。草原の狩猟で鹿猪の大型獣の捕獲は信仰的に大きな意味をもつが、日常生活としては鳥類の捕獲の占める割合が強い。阿蘇盆地北部の弥生から古墳時代の遺跡では、鏃の遺物が軽量であり、その多くは鳥用ではないかと見なされている。民俗事例でも鳥猟が豊富に伝えられ、地域の狩猟民俗としては今後、鳥猟と食文化について調査する必要がある。 阿蘇地方の豊富な考古学・歴史学の成果を踏まえて、民俗学からの草原の狩猟の研究をさらに深化させるとともに、次年度の長野県諏訪地方の祭礼行事についても、狩猟神事と農耕神事を並行して実地調査を行い、阿蘇との比較の上で諏訪の特色も見出せるものと期待できる。
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Research Products
(3 results)