Research Abstract |
今年度は,まず青木が栃木県の清酒製造業を事例として,酒造りと酒造道具の関係について研究をおこなった。酒造りは,これまで南部杜氏や越後杜氏といった蔵人集団が冬の季節出稼ぎとして担ってきたが,近年急速にその数を減らしている。その原因は,おもに地元における就業機会の増大と清酒製造業の厳しい経営状況にある。代わりに,清酒製造業では経営者家族や地元の通年雇用者が酒造りを担うように変わってきている。 この経営者家族と地元の通年雇用者による酒造りは,勤務時間や人員配置,酒造道具・酒造機械の選択にも大きな影響を及ぼしている。これについて調査を行うため,今年度は酒造り現場のビデオ撮影,写真撮影,聞き取り調査,酒造道具・酒造機械のカタログ・パンフレットの収集などに力を入れた。その結果,通勤型の酒造りを実現するため,8時から17時までの勤務時間に合わせて酒造工程を組み直し,それに必要な酒造道具・酒造機械を導入している様子を確認できた。 また,青木は陶磁器業の技術変化について調査をおこなった。とくに近代において急激な大量生産化を実現した美濃焼と瀬戸焼を対象として,道具の製作や絵付けの方法などについて調査をした。それらと比較対照をするため,常滑焼での聞き取り調査や壷屋焼,益子焼,有田焼の産地見学など幅広く主要な陶磁器産地の調査をおこなった。来年度以降の準備として,三木と土佐の鍛冶について事前調査をおこなった。これは,職人・職工道具を作るための鉋やその他の刃物を三木と土佐が多く製造しているためである。 一方,小池は大阪,高知,長崎,福岡をおもなフィールドとして,筆記具の製造現場を調査した。そこでは,職人が作りたい筆記具に合わせて道具を製作し,その道具が必ずしも師弟の間で継承されていかない様子が注目される結果となった。来年度も,小池の研究は筆記具製造が中心となる予定である。
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