2012 Fiscal Year Annual Research Report
規約主義的法人概念の哲学的基礎と規範的含意に関する研究
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21530009
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
桜井 徹 神戸大学, その他の研究科, 教授 (30222003)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 人格 / 国家 / ネーション / 民主主義 / 人権 / グローバル・ジャスティス / 主権 |
Research Abstract |
本年度の研究においては昨年に引き続き,「人権」と「主権」という2つの概念に注目した。これら2つは従来から,人権の強制的な担保の担い手が,主に「主権国家」という法的人格であるという点において,深いかかわりをもってきた。さらに今日では,破綻国家をはじめとして,自らの人民の最低限の人権さえ保障できない国家,あるいは自国の人民の生命・身体という基本的な人権さえ侵害する国家が,次々と国際世論の批判を浴びている。グローバルなスケールでは恒常的に生じているこのような人権侵害を前に,それを目撃する他国は人権保護のために他国の主権にさえ介入すべきなのかという議論が,国際関係論や国際法の領域で近時盛んに行われている。 このような背景のもと,本年度は,果たして「民主主義への人権」という普遍的権利が国際社会における道徳的権利として存在すると考えていいのか,という問題を追究した。このような問題の検討は必然的に,人権保障のための他国への干渉をめぐる諸課題を解決するにあたり重要な意義をもつと考えられる。経験的にも直観的にも,他国から“押しつけられた”民主主義的決定プロセスよりも,国内から自生的に構築されたそれのほうが,より安定的で有効に機能することは明らかである。このような考え方からすれば,とりわけ途上国に民主主義の導入を構想する場合,単に当該国の政治的状況や政治的インフラを考慮するだけでなく,「民主主義への人権」という普遍主義的主張を,政治的状況の特殊主義的かつ厳格な調査に服せしめる必要がどうしても生じてくる。 このような本研究の洞察は,国家という「人為的人格」における民主的意思決定過程の性質が,社会契約という伝統的な国内的概念によって分析されるだけでは足りず,国際法における自己決定権原則つまり内政不干渉の原則との関係において,その本質をとらえ直さなければならないことを明らかにしたと評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年に引き続き執筆・推敲した2篇の論文が,”Should Society Guarantee Individuals a Right to Keep ‘Normal Functioning’?” in Albers, Hoffmann, and Reinhardt (eds.) Human Rights and Human Nature, Springer 及び,”Human Rights and International Society” in Sakurai and Usami (eds.) Human Rights and Global Justice, Archiv fuer Rechts- und Sozialphilosophie Beiheft, Franz Steiner として近々公刊される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は主権国家がもつ「人権保障」という機能と主権概念との複雑な規範的関係に着目するに至り,国家の人為的人格の本質を構成する民主的意思決定プロセスを国際社会の文脈の中でとらえ返すことの重要性に想到することができた。このような研究成果や上掲の2論文の内容をさらに発展させるために,7月にはブラジルのベロリゾンチでの第26回IVR世界大会においてIs National Identity a Necessary Condition for Democracy?という報告を行い,学術的意見交換を活発化させることを通じて,研究成果報告書の作成に向かう。
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