2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21530069
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 哲生 北海道大学, 大学院・法学研究科, 教授 (80230572)
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Keywords | 民事法学 |
Research Abstract |
近時、行動経済学における、人は利得の獲得については確実性を好むというリスク・アバースの性質をもつのが一般的であるが、損失については、一定額の損失の負担を確定させるよりも、リスクをかけてでも損失の回収をはかることを好むというプロスペクト理論に基づき、業者の勧誘行為の規制を考えるという方向性が示されている。このような行動経済学等の知見は市場メカニズムの捉え方に影響するものであると同時に、法哲学的な自己決定の意味にも影響を及ぼしうるものである点で重要である。もっとも、プロスペクト理論を、法的にどのように用いるかは困難な問題である。たとえば、利得の獲得については、リスク・アバースであることは、金銭的にみれば合理的であるとはいえず、その点では、損失が出た場合にはリスク・テイクであることと同じであるともいえる。金銭的な合理性とのずれが問題なのか、利得獲得時と損失負担場面における選好の違いを利用することが問題なのかなど、行動経済学等の知見をどのように活かすかはさらなる問題である。この点は措くとして、従来型の市場メカニズムからの分析、権利としての自己決定という見地からした場合、市場メカニズムが機能するための基盤整備という観点からしても、市場参加者は多様であることからすれば、市場が機能するためにはある程度多様性に対応できるようにしなければならない。他方、権利としての自己決定という見地からしても、この権利は業者のいかなる負担においても保護すべき権利として位置付けることは難しい。そうだとすれば、完全に個々人に対応した形の説明義務を認めるのは困難である。このような見地からすれば、市場メカニズムからみた場合でも、権利としての自己決定という見地からしても、説明義務の具体的内容に大きな差は生じないのではないかと考えられる。
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Research Products
(3 results)