2011 Fiscal Year Annual Research Report
日米の金利の動学分析~ゼロ金利状態に焦点をあてて~
Project/Area Number |
21530298
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中島 英喜 名古屋大学, 大学院・経済学研究科, 准教授 (90510214)
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Keywords | ゼロ金利 / 政策反応関数 / Taylorルール / Tobitモデル / 金利の平滑化 / GMM / 最尤推定 |
Research Abstract |
本研究では、日本と米国の短期金利の動学を長期的な観点で分析し、ゼロ金利状態(ここでは便宜的に年率0.25%以下を想定)を表現できる短期金利動学のモデル選択を検討する。 日本の短期金利の変動を長期的観点から実証的に分析した研究は多くない。特に、ゼロ金利状態に至る過程とその後の特異な変動を系統的に分析した研究、およびポストゼロ金利状態に関するモデル選択を論じた研究は筆者の知る限り存在しない。今般の金融危機で米国の短期金利もゼロ金利状態に至ったこと、および上場企業の経営において市場金利の影響が近年格段に高まっていることを考えると、この空白の解消は学術的かつ実務的に貴重だと思われる。本研究ではこの空白の解消を試みる。 平成23年度は、標準的な政策反応関数の当否を確認するために、これを包含する状態空間モデルを使って各種の分析を広範囲に行った。具体的には、中央銀行がClarida等[1998]の政策反応関数をベースとしつつ金利の下限を意識する状況を考え、金利観測に関するTobitモデルとこれに基づく推定量を準備した。そして、「ゼロ金利政策」の期間を含む時系列標本を使い、ベースとなる政策モデルの推定と診断を行った。 この結果、GMM推定量と最尤推定量の双方で対照的なバイアスが認められた。この内、前者はその小標本特性によるものと考えられる。これに対し後者のバイアスは、分布の打ち切りという技術的問題を超える可能性がある。そこで、ベースのモデルで仮定した金利平滑化の当否を検証した。この仮説の当否は関心の高い問題であるが、その実証は困難な問題であることが知られている。これに対し当年度の研究により、金利の下限に着目することで新たな検証が可能になることが明らかになった。そしてこの検証により、推定期間における金利の平滑化仮説は極めて強く棄却された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は日本円の短期金利について当初計画よりも詳細な分析を行い、金利平滑化仮説に関する強固な反証を得た。一方、米国ドルの短期金利については基礎的な分析にとどまるが、全体的にみると当初予定並みの達成状況だと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である本年度は、これまでの研究で示された結果や示唆に基づく分析を進め、これらのまとめを行う。 上述の通り、昨年度は日本円の短期金利に関して、金利平滑化仮説に関する強固な反証を得た。このため、今年度の研究は主にこの問題を扱い、得られた結果を適当な手段で発表する。また、分析の結果、米国の政策金利については、1980年代の前半もしくは半ばにシフトした可能性が示された。シフト前の特徴は日本の政策金利と似ているが、後半はかなり趣を異にする。本年度は、この点の分析も進める予定である。
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Research Products
(1 results)