Research Abstract |
本年度の検討課題は,第1に,エクソン社にとって中東地域最大の原油生産拠点であるサウジ・アラビアでの1970年代初頭以降の生産戦略とその実行過程の解明である。第2に,アラスカ,北海の2つの新開油田地帯において直面した課題とその打開,1980年代初頭以降のエクソン社の原油生産活動全体に占める両油田群の位置,これらの解明である。本年度の研究から得られた成果は,以下のとおりである。いずれも,従来の研究に対して重要な知見を加えるものである。 第1に,サウジ・アラビアにおけるエクソン社の関連会社アラムコは,油田に対する支配権の喪失を受け入れる一方,サウジ・アラビア政府の同意を取り付けつつ原油生産の飛躍的な拡充を追求した。1980年のアラムコの原油生産量は,1日平均で1027万バレルであり,これは70年の2.7倍である。かかる生産体制は,70年代末においてもエクソン社に対して,西ヨーロッパ市場などで必要とする原油をほぼ確保させる一方,「イラン革命」(1978-79年)に伴う原油不足の時期に,同社に対して,RDシェル社,BP社などへの競争上の優位を与えたのである。 第2に,エクソン社は,アラスカと北海のいずれにおいても,大規模パイプラインの他社との共同利用などによって,厳しい自然環境に由来する投資リスクを軽減し,費用の削減を図った。アラスカでは1977年に,北海では1975年に最初の原油を獲得する。70年代末時点で見る限りは,前者のアラスカ油田は,エクソン社のアメリカでの最大生産拠点に移行しつつあった。他方,北海では主力油田ブレントでの生産が遅延し,なお期待にこたえる成果に届かなかった。これは同油田に賦存する大量の天然ガスが原油の増産を制約する要因となったからである。だが,この難問も,天然ガスの販売体制が確立したことで,1982年夏まで打開された。これ以降,アラスカのみならず北海も,同社にとって,有力生産拠点としての比重を着々と高めるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第1に,サウジ・アラビアでの1974年以降の生産体制の形成についての分析は,既存の研究では全く未解明の部分であり,困難の多い課題であった。各種の業界誌の渉猟によってほぼこれを明確にすることが出来た。但し,予想以上の時間を要した。第2に,アラスカでのエクソン社による生産戦略とその実行についてであるが,原油の販路の確保が生産増を可能ならしめる要の位置にあったこと,およびこの課題を同社が如何に打開したか,これらを解明できたことは重要な成果であった。全体としては,おおむね順調な進展といってよいであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
エクソン社による1970年代の原油生産体制の再編成,新たな事業構造の構築については,サウジ・アラビア,アラスカ,北海を対象にしてほぼ明らかとなっており,近く論文として公表する予定である。 今後は,原油生産部門以外の精製事業,製品販売事業などについての考察が課題となる。だが,この分野についてもまた資料上の制約は大きい。アメリカ,イギリスの国立公文書館での資料収集などに大きな努力が求められるであろう。
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