Research Abstract |
平成22(2010)年度も,昨年度に引き続き,北海道から九州・東北・関東.関西・四国・九州と幅広く,聞き取り調査や史料調査を実施した。総じて,卸業経営の担い手や流通の現場にいた方々への聞き取り調査は,歴史的実態を理解するうえで,大きな成果を得ることができたといえる。 平成22(2010)年度の交付申請書では,1、メーカー側,2、卸業経営者,3、小売業経営者の3つの革新の面から検討すると記したが,実際には,3、小売業経営者への聞き取りは実施できず,1、メーカー側と2、卸業経営者が聞き取り調査や史料調査の主たる対象となった。これまでの調査でも,各時代ごとや各地域ごとの共通点と相違点を,ある程度まで理解していたが,今年度の調査で九州地域の卸業経営者から「日豊線手形」(日豊線沿線は手形の決済期間が他地域と比べて短いことを意味する)という,地域の独自性を表す同一の言葉をあらためて聞くことができたことは,以前はメーカー側の九州地域の流通業務担当者からのみ聞いていたに過ぎなかっただけに,地域間の相違に対する認識をより深める機会となった。 具体的な研究成果としては,昨年度から,何度か調査を重ねていた北海道と東北地域のメーカーと御業の接点に関する論文をまとめて,まず,2010年9月4日(土)に青森大学にて開催された経営史学会第3回東北ワークショップで中間報告をし,そこでの質疑応答などもふまえて,「北海道・東北地域での花王販社の設立と統合の過程」という論考にまとめて,明治大学経営学研究所『経営論集』第58巻第3号(2011年3月)に発表した。そこでの主な論点は,1、北海道では主な地域卸業は花王販社の設立に関与する一方でほぼ同時期に卸業同士の別の連携も推進したこと,2、全道1販社への統合が全国のなかでも早い方であったこと,3、東北地域では各地域の有力卸店経営者の思惑もあって販社の統合がさほど進展しなかったこと,さらに4、北海道と東北のいずれも直販比率が低く花王販社の直販を拡充すべきことが求められる地域であったこと,などである。
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