Research Abstract |
本年度の科学研究費補助金交付申請書の研究実施計画に記した通り,本年度は,メーカーで流通戦略に携わった方,卸業の経営に携わった方,小売業の流通革新に関わった方を対象に聞き取り調査を実施するとともに,各地域の大学図書館および公共図書館での調査を実施した。 卸企業では,函館から札幌に本拠地を移して経営発展を遂げたダイカ(現あらた北海道支社)の創業期にさかのぼって,安定成長期前後までの経営史的検討を実施した。また卸業と小売業の双方の経営に関わった経営者への聞き取り調査も数回実施することができた。とくに,この双方に関わった経営者への聞き取り調査では,一見,無関係とも思えるダイカの経営思想の影響を受けていたことなどは大きな発見であった。また卸業界内の人間関係や,メーカーおよび販売先の大手小売業経営者といった流通の流れからみると,垂直的な関係にある立場の経営者の間の交流なども知ることができた。こうした,人的ネットワークの面は,「日本的流通」の見えざる基礎を成す部分として注目される。 調査過程では,以上のようなさまざまな新しい知見を得ることができたが,本研究課題に即して研究論文をまとめるに際しては,以上の調査対象のうち,北海道から東北へ,そして後には全国へと,事業拠点を拡げた有力卸企業ダイカを対象にまとめることとなった。これらについては,後掲のように,経営史学会北海道ワークショップでの口頭発表のほか,所属の明治大学経営学部の経営学研究所の発行する学術雑誌へ2編,そして他大学の学術雑誌へ1編,論文として掲載することができた。 なお,今年度の研究は,概して所期以上の成果をみることができたといえるが,今年度の研究を通じて有力地域卸企業の1990年代以降の展開,さらには卸企業経営者のアントルプルヌールシップと卸企業の組織能力の決定要因,などといった新しい研究上の関心が生まれてきたことも大きな成果であったといえる。
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