2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21530934
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
菅 道子 和歌山大学, 教育学部, 教授 (70314549)
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Keywords | 音楽科 / 戦時期 / 発声 / 簡易楽器 / カリキュラム / 戦後 |
Research Abstract |
H23年度はモノと声にかかわる音楽教育実践の具体化として簡易器楽指導と音感教育に焦点を当て、その実際を明らかにするとともに、1930年代の政治、社会状況の中で学校音楽がどのような特質と機能を有していたのかについて検討を行った。 ・器楽指導については、1930代に東京市内の尋常小学校訓導、上田友亀、山本栄らを中心に展開された簡易楽器指導の成立とその実際を辿った。玩具的楽器を使用し、粗雑な音であっても子どもの興味関心、経験に繋がることを第一と考えた上田友亀に対し、山本栄は音程正確でハーモニーを作るハーモニカを利用し、和声的合奏を重視した。山本の実践は大衆音楽楽器として流布していたハーモニカの学校音楽への導入を意味するものでもあった。また彼らの情報交換・研究の媒体として雑誌『学校音楽』の活用があったことは特筆すべき事柄であった。それは音楽文化と教育との間で新たなものが創り出される時、メディアを媒介として、一般の教師たちがその創出の主体となっていったこの証左であった。 ・歌唱指導については、昭和前期に大阪府堺市において実践された和音感教育を取り上げた。堺市視学佐藤吉五郎が主導した音感教育は、基礎的な音楽能力の獲得を目指し、幼・小学校の継続的指導を組織的に実施した。またその実践は軍部の接近により、次第に国防教育の先進的取り組みとしての色彩を帯び、レコード、記録映画などのメディアを活用して全国へと喧伝されていった。音楽基礎力の育成と国防教育というのは今日では相反する理念に見える。しかし、戦時体制へと向かう時代にあって、教師たちにはそれらは矛盾なく両立する使命となり、軍国主義というイデオロギーが教師自らの内的動機としても選択されていく、そうした危うさが日々の実践の中に存在することが看取された。
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