2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21540114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保川 達也 東京大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (20195499)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 線形混合モデル / 小地域推定 / 経験ベイズ推定 / 変数選択規準 / ベンチマーク問題 / 高次元解析 / 統計的決定論 / バートレット補正 |
Research Abstract |
当該年度においては,(A)線形混合モデルにおける検定統計量のバートレット補正,(B)小地域推定におけるベンチマーク問題,(C)一般化線形混合モデルにおけるベンチマーク問題,(D)一般化線形混合モデルにおける変数選択問題,(E)高次元モデルにおける共分散行列のリッジ型推定,(F)多次元母数の推定における最適性理論の新たな展開,について新たな手法の提案とその理論的性質及び応用上の有用性について研究成果を得た。(A)については,一般的な一致推定量に基づいたワルド検定統計量について第1種の過誤の2次漸近補正を求め,それから求められるバートレット補正を行うことによって,数値的にもかなりの改善が得られることを示した。(B)は正規線形混合モデルについて,また(C)は一般的な混合モデルについて,平均と分散に関する制約条件のベンチマーク問題の解として,制約付き経験ベイズ推定量を求め,その平均2乗誤差の2次漸近評価と2次不偏推定の導出を行った。この漸近不偏推定の作り方としてテイラー展開に基づいた解析的な方法とパラメトリック・ブートストラップに基づいた数値的な方法を提案し,いずれも妥当な推定方法であることを数値的に示した。また家計調査データや埼玉県の市町村別胃ガン死亡率データに適用して提案した方法の有用性を示した。さらに経験尤度と事前分布をリンクさせ,ベンチマーク手法をノンパラメトリックなモデルへ拡張することを考察した。(D)の変数選択問題については,ペナルティー項をパラメトリック・ブートストラップで推定する際,従来の方法を改善する手法を提案し数値的な比較を行った。(E)については,高次元においてリッジ関数をどの程度のオーダーでとる必要があるのかについて研究結果を得た。(F)については,共分散行列の推定に関してミニマックス解を与える事前分布の列の発見に成功し,研究論文としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では,多変量データを解析するためのモデルにおいて従来の推測手法を改良する新たな統計手法を開発し,それが従来の手法に比べて理論的に優越していることや有効性・最適性に関する理論の展開を行い,数値実験を通して比較し,現実のデータ解析において役に立つことを示すことを目的としている。具体的には,(A)線形混合モデルを利用した小地域推定,(B)多変量線形混合モデルへの拡張,(C)一般化線形混合モデルを利用した疾病地図の作成,(D)高次元多変量解析の展開,(E)対次元ぼすうの推定における最適性理論の新たな展開,を扱うことを当初計画した。今年度は,いずれの問題のおいても新たな研究の進展を行うことができた。特に(C)は23年度までは実施することができなかった課題であったが,今年度は,一般的な混合モデルの枠組みで経験ベイズ推定量とその平均2乗誤差評価を与え,さらにベンチマーク問題への拡張も行うことができた。提案された手法を用いて埼玉県の胃ガンによる市町村別死亡率の推定を行い,提案された手法の妥当性を示すことができた。こうした離散分布でのベンチマーク問題を取り上げたのはこの分野では初めての試みである。
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Strategy for Future Research Activity |
(A)の問題はRothenberg(1984)によりかなり一般的な枠組みでワルド検定,スコア検定,尤度比検定に関してバートレット補正が求められている。しかし彼の結果は共分散行列の母数推定に最尤推定を用いている点とバートレット補正を具体的に計算するのが困難である点に問題がある。線形混合モデルもこの一般的な枠組みに入り,最尤推定以外にも制限付き最尤推定や最小分散2次不偏推定量など様々な推定量が用いられるが,これらについてはRothenbergの手法を用いることができない。そこで,一般的な一致推定量に対してバートレット補正を導出することと,解析的なバートレット補正を容易に求める方法としてパラメトリック・ブートストラップに基づいた手法を考案することが今後検討される。(B)並びに(C)の小地域推定のベンチマーク問題はこれまで加法的な線形モデルにおいて考察されてきたが,所得や歳入など正に値をもつデータに関して加法モデルを当てはめることは適切でない。そこで乗法モデルを導入し自然なベンチマーク推定量が得られる枠組みを導入し,制約付き経験ベイズ推定量の誤差評価と2次不偏推定量の導出が今後望まれる。
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