2012 Fiscal Year Annual Research Report
ランダムな曲線やパターンの集団に対する統計力学の構築とその応用
Project/Area Number |
21540397
|
Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
香取 眞理 中央大学, 理工学部, 教授 (60202016)
|
Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 統計力学 / 物性基礎論 / 数理物理 / 確率論 / 確率過程 / 時空パターン / 共形不変性 |
Research Abstract |
(1)非衝突拡散過程においては,時空平面上に多粒子の軌跡が複雑な非交叉経路を描くのであるが,そのランダムな曲線集団の時空パターンの正確な記述方法の開発は,大変興味深い研究課題である。時空平面で1時刻を選び,その時刻での空間上の粒子分布を考えると,それは行列式点過程と呼ばれるものであり,ランダム行列の固有値分布と関係が深い。この点過程は相関核と呼ばれる関数で支配されるが,それはランダム行列理論で発展してきた直交多項式の方法で厳密に定めることができる。我々の関心は,この空間分布に対する行列式点過程を時空平面上に拡張することにある。この時空上に拡張された行列式点過程を,「行列式過程」と呼ぶことにする。行列式過程は初期配置によって異なるので,時空上に拡張された相関核は初期配置の汎関数となる。我々は以前,非衝突ブラウン運動と非衝突ベッセル過程に対して,従来の直交多項式系を拡張した多重直交関数系を用いることで,時空相関核を定めることに成功した。しかし今回,非衝突ブラウン運動に対して,時空相関核を求めるには実は直交関数系は必要なく,実ブラウン運動を複素ブラウン運動に拡張し,その共形不変性を用いれば良いことを明らかにした。その解析で共形行列式マルチンゲールという新しい概念を提案した。我々の複素ブラウン運動表示は,無限粒子系を記述するにも有効であることを示すことも出来た。 (2)非衝突拡散過程にドリフト項を導入する研究はこれまでほとんどなされていなかった。我々は,ドリフトの無い系とある系との間に,時間反転を伴った関係が成立することを明らかにした。また,特別なドリフトを持つ系は,時間に依存した Stieltjes-Wigert 直交関数系で記述できることを明らかにした。 (3)非衝突拡散過程を拡張し,短い空間スケールでは軌跡の交叉が許される O'Connell 過程について研究した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)非衝突拡散過程を拡張した O'Connell 過程は,量子戸田格子と関係がある。このプロセスは,多粒子系の軌跡の時空上でのランダムなパターンに対する統計力学理論を考える上で大変興味深い研究対象である。これはまた,Macdonald 過程と呼ばれるより一般的で複雑な多粒子系の下位にあたるものと見なすことができ,包括的な理論の構築が望まれている。このような状況にあってこの分野の研究の進展は著しいが,我々はO'Connell 過程を非衝突拡散過程と同様に条件付過程として定式化することに成功した。この O'Connell 過程は行列式過程ではないが,特別な物理量(統計量)は行列式で記述できることが明らかになった。そのメカニズムを解明することは大変ホットな研究課題である。今回,この行列式で表される量が,我々の複素ブラウン運動表示と相似な構造を持つことを明らかにすることが出来た。これは当初は予想していなかった新展開であり,さらなる興味深い研究課題を生み出すことになった。 (2)確率的レヴナー発展方程式(SLE)の研究に関して,確率論の福島正俊氏や白井朋之氏と議論する機会を得ることが出来た。これにより,多重連結領域への拡張の意義を知り,特に2重連結領域に対する定式化には,楕円関数論が重要であることを理解することが出来た。予備的な計算により,特にワイヤシュトラスのゼータ関数と確率過程との関係を研究する必要性が明らかになった。これも当初は予想していなかった知見であり,今後の研究課題となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)ランダム行列理論と関係する非衝突拡散過程の典型例である非衝突ブラウン運動に対して,今回新たに「複素ブラウン運動表示」を得ることができた。これにより,多重直交関数の複雑な計算を経由することなく,行列式構造を一般の初期配置に対して導くことが可能となった。しかし,非衝突過程の別の例である非衝突ベッセル過程は同様の複素ブラウン運動表示を持たない。この非衝突ベッセル過程を含む,より広い非衝突拡散過程に対して,複素ブラウン運動表示を拡張していくことを今後の研究課題とする。 (2)非衝突過程にドリフトの効果を入れたり,あるいはジャンプ過程を含める形に拡張することを考える。前者は Stieltjes-Wigert 直交関数系と関連し,物理的には高エネルギー物理における Chern-Simons 理論と似た構造を有する。後者は Dunkl 作用素と関係する。これらの拡張を研究する。 (3)O'Connell 過程,あるいは Whittaker 測度は確率法則としては行列式構造を持たない。しかし,特別な統計量に限って考えると,それらを行列式を用いて与えることができる。この現象を行列式点過程や行列式過程の何らかの拡張として理解したい。 (4)2重連結領域に対する確率的レヴナー発展方程式(SLE)の研究を通じて,楕円関数論と確率過程論との関係を考えたい。
|
Research Products
(12 results)