Research Abstract |
平成21年度は,北海道に分布する白亜系蝦夷層群を中心に,本邦の中・古生界で菱鉄鉱ノジュールの産状を調査した. その結果,北海道達布地域に分布する上部蝦夷層群の沖合泥岩相のうち,コニアシアン階~サントニアン階にかけてのいくつかの層準中に,黄色~黄褐色を呈する特異なノジュールが普通に含まれていることを見いだした.粉末X線分析の結果,これらの主成分は菱鉄鉱(FeCO3)であることが確認され,これらが菱鉄鉱ノジュールであることが確かめられた.また,蝦夷層群の石灰質ノジュールには,硫酸還元バクテリアの活動によって形成された黄鉄鉱(FeS2)が普通に含まれるが,菱鉄鉱ノジュール中にはそれがほとんど含まれないことが確認された.これは菱鉄鉱の形成に硫酸イオンの有無が大きな影響を与えており,硫酸イオンが存在する環境では鉄は硫化鉄(黄鉄鉱)として消費されてしまい,鉄の炭酸塩(菱鉄鉱)は形成されないという仮説を強く支持する. 一方,小型のイノセラムス:Sphenoceramus naumanniは,蝦夷層群上部の泥岩相から多産する.その産状を詳細に調べた結果,本種は通常の石灰質ノジュールばかりでなく菱鉄鉱ノジュール中からも産出することがわかった.両者の産状を比較すると,石灰質ノジュール中のものは,殻の見かけの保存状態は良いが,離弁個体が多く,水流によって運搬された異地性の産状を示していることが多いことがわかった.他方,菱鉄鉱ノジュール中の個体は,見かけの保存状態は悪いが,合弁のバタフライ産状を示す個体が特徴的に含まれるなど,むしろ本種固有の生態情報をよく残していることがわかった.この差異は,石灰質ノジュールと菱鉄鉱ノジュールの形成環境に関係している可能性が高い. 今後,これらの観察を手がかりに,菱鉄鉱ノジュールの特殊な形成環境や,当時の海生動物の古生態をさらに解明してゆく必要がある.
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