Research Abstract |
平成22年度は,北海道・達布,古丹別,羽幌地域に分布する白亜系上部蝦夷層群を中心に,本邦の中・古生界で菱鉄鉱ノジュールおよびそれに関連したの産状を調査した. その結果,蝦夷層群の沖合泥岩相のうち,セノマニアン階の一部,コニアシアン階~サントニアン階にかけてのいくつかの層準中に,黄色~黄褐色を呈する菱鉄鉱ノジュールがかなり豊富に含まれていることを確認した.これらの層準は,平行葉理泥岩,ないし塊状無層理泥岩で特徴付けられるが,いずれも生物擾乱に乏しく,イノセラムスを除く底生生物化石に極めて乏しい.これは,白亜紀中期に発達したOceanic Anoxia(無酸素水塊)の何らかの影響下で堆積したことを示唆する.ただし,なぜ海底周辺に硫酸イオンが存在しなかったのかという,今後につながる新たな問題が提起された. 一方,小型のイノセラムス:Sphenoceramus naumanniが,合弁のバタフライ産状を示して菱鉄鉱ノジュール中に保存されている実例を数多く観察することができた.今後,菱鉄鉱ノジュール中に例外的に残されている本種固有の生態情報を解明してゆく必要がある. 他方,菱鉄鉱の形成過程を研究した過程で,リン酸カルシウムにより交代され,化石化する別の重要な化石化プロセスがあることがわかってきた.この過程は今までほとんどノーマークであった. 今後,これらの観察を手がかりに,菱鉄鉱ノジュールに加え,リン酸カルシウムによる特殊な化石形成過程や,当時の海生動物の古生態をさらに解明してゆくヒントが得られた.
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