2010 Fiscal Year Annual Research Report
低エネルギー電子による生体分子損傷の第一原理シミュレーション法の開発
Project/Area Number |
21550005
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
高柳 敏幸 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (90354894)
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Keywords | 溶媒和電子 / 反応動力学 / 電子衝突 / 分子クラスター / 水素結合 / 電子脱離 |
Research Abstract |
余剰電子、水および極性分子からなる2成分アニオンクラスターは、生体内における反応や水溶液中での電子移動反応など様々な現象と深い関わりがあり、極めて重要な研究対象である。本年度は水に溶媒和された電子が極性分子へと移動し、分子アニオンが生成する反応機構を理解するため、ニトロメタンと水分子からなる2成分アニオンクラスターについての研究を行った。この系は、最近永田グループによって光電子分光実験が行われた。彼らは、電子束縛エネルギーの異なる2種類の余剰電子の束縛形態が存在すること、電子束縛エネルギーの小さなクラスターについては、脱離エネルギーより小さいエネルギーをもつ光を照射すると、水分子が3つ蒸発したニトロメタン-水3量体のフラグメントアニオンが生じることも見出している。なお、ここで生じるアニオンは余剰電子が原子価軌道にトラップされたアニオンである。 そこで本年度は、[CH_3NO_2・(H_2O)_n]^-(n=0-6)クラスターについての非経験的分子軌道計算および長距離補正を取り入れた密度汎関数法計算を行い、余剰電子の特殊な束縛機構について考察した。詳細な構造最適化の結果、水クラスターとニトロメタンによって余剰電子が挟まれた(H_2O)_n{e^-}CH_3NO_2型クラスターと、互いが双極子を同方向に向けている{e^-}(H_2O)_n・CH_3NO_2型クラスターの存在を見出した。エネルギー的には後者の方が安定であったが、前者の構造は溶媒和電子から分子アニオンが生成する過程の中間体とみなすことができ、極めて興味深い。また計算で得られたエネルギーダイアグラムから、光照射実験の結果を定性的に説明することができた。今後、クラスターの構造変化を伴う現象を理解するためには動力学的な取り扱いが必要である。
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Research Products
(5 results)