Research Abstract |
環境中のひ素は様々な化学形態で存在し,毒性はその化学形態に依存する.そのため,正確なリスク評価を行うには,化学形態と各形態濃度を正確に測定する必要がある.しかし,定量の際に必要となるひ素化合物の標準液の種類は限られており,さらに化学形態によって分析時の定量感度が異なる可能性などが懸念されている.本件では,高純度のひ素化合物試薬を純度評価し,さらにその調製溶液中のひ素濃度を,JCSSひ素標準液を基準にした分析を行うことで,厳密に濃度決定したひ素化合物の基準液を調製すると同時に,化学形態に依存する分析感度の影響を検討した. ひ素化合物には,モノメチルアルソン酸,ジメチルアルシン酸,トリメチルアルシンオキシド,ヨウ化テトラメチルアルソニウム,アルセノベタイン,アルセノコリンブロマイドを用いた. 1,試薬純度評価では,元素分析により炭素,水素,酸素,塩素,臭素,よう素含有量およびTG-DTAによる含水分量を測定した.また,試薬から調製した溶液中のひ素をICP発光分光分析法で分析し,さらに高速液体クロマトグラフィー-ICP質量分析法による不純物ひ素化合物分析をした.得られた結果を各ひ素化合物の分子量およびひ素の原子量と比較した結果,試薬純度は99.8%~101.2%であった.各試薬は,化合物によって吸湿性が大きく異なり,純度評価を行う際の最大誤差要因であった.2.分析感度差を生じる可能性があるひ素の分析結果を除いても,その他の構成元素は分子式における理論量に一致した.よって,水分補正などを厳密に行った各試薬を重量比混合によって調製し,各化合物の基準液となる1000mg/kg溶液を調製した.この溶液の一部を用いて,JCSSを基準としたひ素分析を行い,SIトレーサブルなひ素化合物基準液を調製した.よって,今後実分析におけるSIトレーサブルなひ素の形態分析が可能となった.
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