Research Abstract |
本研究は,人体内部と人体外部の間の医療支援のためのインプラントBAN (Body Area Network)に適する通信方式の解明及び最適化を目的としている.一昨年度では,IEEE802.15.6で候補として挙げられたMICS (Medical Implant Communication Services)帯とUWB(Ultra Wideband)ローバンドを対象に,チャンネルモデルの構築を行い,昨年度では,その成果に踏まえ,送受信機の試作と実験的検討を行った.最終年度の今年度では,まず,人体安全性を担保するために,MICS帯とUWB帯における体内カプセル内視鏡の想定位置における電磁エネルギーの吸収量,即ちSAR(Specific Absorption Rate)を計算した.特に,狭帯域のMICS帯については,解剖学的人体数値モデルにカプセル内視鏡用小型アンテナを埋め込み,FDTD(Fhiite Difference Time Domain)法を用いて,計90ヶ所の消化器内のカプセル想定位置における局所SARを求めた.次に,カプセル内視鏡の移動を考慮したフェージングチャンネルモデルにおける通信特性を解析し,一定の通信品質,例えば10^<-3>のBER(Bit Error Rate)を確保するために必要な送信電力を算出した.この送信電力下における体内90ヶ所の10グラム平均局所ピークSARの統計分布を求め,局所ピークSARの平均値・中央値・最頻値,及び人体の電波防護指針と照合した場合の安全指針値を超える場所的確率を明かにした.例えば,10^<-3>のビット誤り率,20Mbpsの高速伝送を実現しようとすると,25mWの送信電力が必要であり,そのときにカプセル内視鏡が体内で移動しながら2W/kgの局所SAR指針値を超える確率が4%に達することを明らかにした.これらの結果を基に,通信のBERと人体安全性のSARの二つの視点から総合的に考察を行い,インプラントBANに適するMICS帯FSKやPSK変調方式及びUWB帯IR方式を適用するときの最大送信電力と最大伝送速度を明らかにした.さらに,これらの検討を基に,体表に複数の受信機を設置するダイバーシチ受信方式の導入を提案し,2ブランチ受信ダイバーシチの適用で,体内から10Mbps以上の高速伝送を実現しつつ,10dB前後の所要送信電力及びSARの低減も実現できる送受信システムの最適化を図った.なお,これらの成果は,2篇の学術論文,1件の国際会議招待講演,1件の特許出願にまとめられた.
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