Research Abstract |
平成21年度の調査結果から,津波被災を感覚的に経験した人(例:死の恐怖を感じた)と,実際に津波被災を経験した人(例:死者を目撃した)との間に有意な差がみられた.すなわち,津波被災時に家にいた人,死者や負傷者を目撃した人,避難が遅れた人,家族や友人が負傷した人,本人が負傷した人,子供や配偶者または家族を失った人,家族が行方不明になった人,津波により生計を失った人では,そうではない人よりもIES-R(Impact of Events Scale-Revised)スコアの中央値が有意に高かった.また重回帰分析の結果,高齢者の中でも比較的若い年齢層の人(50~60代前後),津波によって家族を亡くしたか家族が負傷した人でIES-Rスコアが有意に高かったことから,津波の被災体験が若年高齢者層のメンタルヘルスに影響を及ぼしたことが示唆された.さらに,本研究の対象者の多く(93%)は家族(親族)と共に生活しており,家族員数の中央値は5人であった.そのため,スリランカの高齢者は家族(親族)からのサポートを多く受けており,精神的被害を軽減させていたと考えられる また本年度は前年度に引き続き,同地区(スマトラ島沖地震後に津波の被害を受けたスリランカ南部マータラ県に住む60歳以上の住民)を対象に,無作為抽出のもと約25名の聞き取り調査を行った.認知症の発症率を調査するため,同住民にシンハラ語バージョンMMSE(Mini Mental State Examination)を行った.MMSEに関する詳細な分析はまだ終えていないが,全体的に「日時」,「7シリーズ(計算)」,「想起」に関する項目において低い値が目立った.しかしこれらは対象の文化的背景や生活習慣,また教育の機会が低いことが影響を及ぼしている可能性も高く,一概に津波の被災体験によるものとは考えにくい.メンタル・ヘルス回復プログラムは社会的な統合への試みであるだけでなく,共同体全体への努力を必要とする.特に,甚大な災害をもたらした後,様々な年齢層と異なった期間のニーズを考慮に入れることは不可欠である.今後も長期的視野で高齢者のメンタル・ヘルスに影響を及ぼすメカニズムを調査し,被災者に対して必要とされるケアや解決法を模索しながら,実証的な調査,系統的な調査を行っていく必要がある
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